第13章 磨りガラスの想い出
進みなさい、と背を押されて部屋を出ると、背後で鍵の掛かる音が聴こえる。
部屋で考えるのはまた後でになりそうだな…。
今日は机や椅子などを取っ払った、大きな会議室へと連れて行かれた。
確かこの部屋は腕を切り落としてた実験の部屋だった。
ここの構成員も少し増えたなぁ。
ずらりと部屋に二列、スーツの男女が並んでいる。男女比率は変わらず男性が多い。数人減って数人補充を繰り返してる。
どうしても辞めるって構成員がたまに居る。その場合は臓器を取っては治すという苦痛を与え、その構成員に"契約書"をさせてから辞めさせてる。情報が漏れないのは契約書のおかげか、ここを出て始末されたか……そういう事は私には分からない。想像するしか出来なくて。
減った分は龍太郎みたいに新規で補充する。ただ、龍太郎曰く最低でも呪いが視えなくてはいけない、が条件で、呪術が使えれば地位やボスから直々に組織内での名前を与えられる、のだそうで。
……そう言えば、私もたまに"ラブ"とボスに呼ばれる時もあった。何だよ、愛って。小学生でも分かる単語だしもっとこうちょっと長くて格好良いのとか……いや、別に名前が欲しい訳じゃないけれど。
ボスを待つ間に余計な事を考えて視線を落とし、頭を小さく振る。私は構成員じゃないんだし。ただ、治療してるだけ。
まあ、明らかに日本人顔なのにクリミアとかその辺にごろごろ居る名前じゃないしね、と何名か聞いたことのある、異国の響きの名称を持つ構成員を離れたこの位置から眺めた。
カツ、カツ、カツ…。
足音が近付き、開けられたままのドアからボスがやってきた。
構成員達を見渡せる、少し離れた位置に私とクリミアが立つ。その私達から少しだけ距離を取ってボスは立ち止まった。
鞘に収められた刀をボスは両手で支えている、杖の様に。
クリミアは始めこそ私の世話係以外にボスの秘書的なものでもやってんのか、と思っていたけれど扱いを見るにそれは無さそうで。
詳しくは知らない、ただ私に縛りを迫る中で「"縛り"をすればクリミアの"縛り"も解けたでしょうに」と薄ら笑っていたボス。その"縛り"が何なのかは分からない。彼女も私に近い立場で割と自由な身柄なのかも……と、思えばより"縛り"への警戒心が解かれていく。