第13章 磨りガラスの想い出
奇跡。それは非術師にとってであり、呪術師にとっては呪術のことを指してる。
それくらいは知っていますよ。フッ、と笑みが零れた。
「それは楽しみです、その奇跡に早くあやかりたいものですね」
私が本日最初という訳では無さそうだ。通路の方で元気な声が聞こえる、ありがとうございました!と。伊地知さんが言うにはこの場で治療を受けた後に支払いが別室で行われる。
扉は3つ、同行者として構成員が一人だけ着いてくる。治療は即座に終わってもその支払う金額が金額だけに時間が掛かるからという考えの様で。
なるほど、3人ここに居るのはローテーションで回す為……私側に居る龍太郎さんは私が来ると分かっているから調整したという事か、と納得しながら少しの雑談…、こうなってしまった経緯や自分の身がどれだけ優秀であるかを挟んでいく。
もちろんデタラメの情報。けれどもその中にかつて私が身を置いた、呪術師となる前の職場の経験を挟み込む。寺田は何度も頷いて同情するような表情をしていた。
「──そうでしたか、お可哀そうに。ですが七尾様、それは奇跡をもって覆されます。悲劇を乗り越えて今まで以上にご活躍を……そしてまた、悲劇の只中に居る方には奇跡への招待をお願い致します」
"七尾(ナナオ)"という名前での予約。そう滅多に無い名を指定するのはどうかと思いましたが、五条さんが「七海だからー…七が付く七尾で良いんじゃね?」と勝手に命名をしてきた。伊地知さんの様にありきたりに田中にしようと言っていたのに私だけ何故一文字を取ったんです?と聞くにも本人はすばしっこくその場から逃走。
本名のままよりは良いですけれどね、とリベルタのボスの言葉に宜しくお願い致しますと軽く会釈をした。
寺田は締めたままのドアに顔を向ける。
「入りなさい」
はい、という女性の声と開かれるドア。向こう側に待機していたらしい。
開けられたドア、馬の手綱を引くように両手を縛る拘束具を持って入る女性構成員。引かれながら入ってきた人物は報告にあった通りほぼ地毛の状態で顔は隠され、僅かに見える横顔からは目隠しが見えた。