第13章 磨りガラスの想い出
ああ、ズクズクと脚が痛む。
はあー…、とため息を吐き出して壁に手を伸ばす。
「ではそろそろ行きます」
壁に掛けられた松葉杖を手に取り立ち上がった。医務室に来るまでは自前の二本足で、出る際は一本とそれを支える杖が二本。
アイマスクをしたままでありながら、五条さんは少しだけ口元を緩める。
「……マジで頼むよ、七海」
「お任せ下さい……といってもあなたの資金(ポケットマネー)背負ってそれをリベルタに渡しハルカさんに治して貰った後に帰って来るだけですけれど」
「おいおいおーい…」
ははは、と小さく笑う家入さんの声を背に医務室を出る。
そのまま私は服やサングラスなどを変え、顔の割れていない補助監督生の車で送迎をされて。
私は松葉杖をつきながら目的地のビルへと入っていった。
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いつものサングラスやスーツも替え一般人を装う。相手は呪詛師、精一杯にバレない工夫を凝らした。
自動ドアが開くと同時にスーツを来た女性が小走りに近付き、丁寧に案内をしてくれる。
通された一室は失った体を取り戻すという割には医療器具などを一切置かない、一般的な応接間。革張りのソファーに私は慣れない松葉杖をつきながらゆっくりと近付き、先に現金の詰まったリュックサックを置いて腰掛ける。
目の前にはガラスのテーブル、中央に小さな鉢植えの花。そして周囲にはスーツを着たスタッフ…いいや、リベルタの構成員達。その中にひとり、手前側に五条さんが送り込んでいた青年が混じっている。
その人達を見てから私は目の前に座る体格の良い男……リベルタのボス、寺田に視線を移した。
「失った身体を治すと私は聞いたのですが、こちらは病院の様な施設では無いのですね。スタッフも看護師というわけでも無さそうで」
やや無知に、時に知性のあるように振る舞う。
ただの無知であれば金をただ置いていく良い客になってしまう。情報をひとつも出さぬままに終わってしまう。
けれども知性ある客であればどうだろう?こういった人間には得意げになって話すのでは。
寺田は人の良い笑みを浮かべている。
「ええ、ええ!病院の様な施設は一切ありません。いえ、必要すらないのですよ。注射も消毒も、医者そのものもここには居ませんよ、当カンパニーは"奇跡"が売りですので」