第13章 磨りガラスの想い出
貴重である故に狙われる。家入さんもそうだ。そしてハルカさんは春日一族のひとりで最後のひとり(お婆さんは家にずっと引き篭もられている、とか)
その彼女が何年か前にも騒がれた呪詛師集団に捕まり、なにやらいかがわしい"何か"を手伝わされている。
その情報を受け取る為にもなんとしてでも潜入を成功させなければいけなかった。
「ハルカに会ったら宜しく」
へらへらと笑う五条さんが身を起こして言った。
そんな事言える訳が無い。いつもの悪ふざけだ。黙って見上げながらリュックサックを背負うと、リュックサック本体と五千万円の重み。伊地知さんの手首だけの時は三千万円だったそうで。
そんな大金でも、義足や義手、他人からの移植した部位ではなく確実に自分のパーツを取り戻せる……失った場所を取り戻そうと駆け込む者は多く、私でさえ本来の予定の2日遅れの予約となってしまった。実行の日が伸びるほどに顧客はもっと増えてくると見られる。
遅れるほどにハルカさんが良からぬ事になってしまうのではないか?と誰もが推測をしている。
また、五条さんも。今はいつも通りに見えてもハルカさんが居なくなって数日間は非常にピリピリとしていて人がそう近付かない程に。夏油さんに相談した所、「七海。悟、いつも通りに戻ったと思うよ」と言っていて会ってみれば確かにほぼいつもの五条さんに戻っていた。
それも長引ければそんな彼も"平常心"が保たないというのは誰にでも分かる事。
家入さんがベッドの上のリュックサックをじっと凝視して鼻で笑った。
「……それにしても伊地知と七海で、ハルカの様子を見に行くのに八千万円ねえ……」
「非術者には奇跡だからね~…僕達はパッ!と呪術でやったりするけれど。ハルカの場合は視覚での認識じゃなくて"負"を吸い取って"正"を与えてるから…」
通常の術式と反転術式そのものが違い、メリットとデメリットの天秤を抱えている。他人の怪我を治しても彼女は機械ではない、人間。予約がいっぱいになる程に使われているのならば疲労も相当でしょう。また、伊地知さんの言っていた式髪の白髪具合や服に染み付いた怪我なども気になる点は多い。そこの所の情報を掴めていれば、の話。先に潜入しているという、五条さんの知り合いの腕に掛かっている。