第13章 磨りガラスの想い出
そんな中ではっと気がついた。私は檻の中を部屋だと思った事。長く居すぎた結果、背後のあんな場所を部屋だと思ってしまっていた自分に悲しくなってくる。
でもきっとここから助け出されるんだ。龍太郎が悟に言われて来てるんだから。
脳裏に浮かぶ遠くで手を振ってる悟の姿を想像して私は今日も生きようと手をぎゅっと握りしめ、気合を入れた。
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龍太郎のリベルタへと投入は、かつて姉をリベルタの構成員に殺された彼には重い案件かと思ったけれど。
僕の提案を聞いて龍太郎は即答した。お任せ下さいってさ。
昔、その構成員を捕まえて敵は取ったから彼の憎しむ相手はいないとは言えさ。僕と違って性格は良いんだろうね、彼。
ギシ、とハルカのベッドに腰掛けて寝る前にひとり、これからの事を考えてる。ちゃんと眠れる、彼女の香りがまだ残っているから。けれどもあの柔らかな抱き心地も体温も、さらさらとした髪も、声も、笑みもここにはない。朝起きてもあの寝ぼけ顔にたまによだれ垂らしてたりする所もしばらく見てない。
「寂しいねー…オマエが居ないと。まだ僕、一度も旦那さんって呼ばれてないのにさー?」
会いたい。
限界が近い、禁断症状が出てもおかしくない。いや、もう禁断症状出てる気がする。
かなり手を打ってるからもう、一、二手くらいでそろそろ取り返せそうだと思うんだけれど……。
ごろん、と横向きになってハルカの枕をぽんぽん、と軽く撫でる。
「後は少し周囲の様子を見た後に七海が行くって言ってたから……、」
伊地知の手首切断の件を聞いておいて七海は良く決断したよな、と思う。思い切って片足……膝下を切断予定らしい。
確かにハルカにしちゃ簡単に治せるし重傷であればこそ金を握って行けば直接ハルカに会えるけど。それでもよくあの会議の場で「私が行きましょう」だとか言えたもんだよ。
いや。七海には確かに感心したけれどちょっと悔しい。僕自身が彼女の元に行けないのが残念だった。腕だろうが脚だろうが助けるために切り捨てても会いに行ったのに僕はあまりにも有名すぎた。力を持ちすぎた。
暗い部屋でカーテンの隙間から溢れる薄明かり。月も星もきっと綺麗にはっきりと見えてるんだろうな。一緒に夜の散歩に行こうか、なんて誘いたい気分だけれど。ハルカ……。