第13章 磨りガラスの想い出
食事は両手が拘束されている中で食べれない事はないけれど、真面目なクリミアは私に食べさせる。
「口を。口を開けなさい」
始めこそクリミアにも怒りを覚えていたけれど、過ごしている内に操り人形みたいな彼女に僅かに同情しつつある。
なんだろう、洗脳かな…縛りかな。なんか弱みでも握られているとか……
フードボイコットするわけでもないし、毒が入ってるようにも思えない…お腹は減るし。クリミアをちら、と見て口を開けると箸に摘まれたほうれん草のおひたしが口に詰め込まれる。
あの恋人とかがやる、あーん、ってやつ。こういうのは大人になってやらんわな、と考えながら次に運ばれてくる食材を口で受け入れっる。
……あ、でも前に風邪を引いた悟に食べさせてって言われてお粥を食べさせたっけ。食べさせてくれたら食べれるって言うから食べさせていたのに、急に「あーんして?」だとか「ちょっと甘える感じで言って欲しい」だとかいってさー…。
あんなに手のかかる大人を放っておいて大丈夫かな…、すぐに寂しがるしひとりでちゃんと眠れているのかな。会いに行けないけれども彼が心配になった。
悟も何かしら私を思ってくれたら良いけれど、彼はどんな事を考えてるんだろう?
少し暖かい想い出を浮かべながら、意外とこういう立場のわりに栄養管理の行き届いてる和食を食べた。
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特別なお客様、と呼ばれる私が触れる対象が来ない間は実験される事もあるし、構成員の実験に手伝わされる事もあるけれど、檻でじっと待機する事が結構あった。
その待機中にこの檻には娯楽なんてないし……することも無いからいろんな記憶を思い出してた。敷かれた布団以外無いのでその布団に腰を下ろし三角座りをして。
本当に、本当に楽しかった。悟とデートを回数こなしたらなら結婚って言っておいて正解だった。今は想い出が私の精神の支え。
恋人との想い出を振り返る事が一番の娯楽になってる。
けれども少しだけ不安になる。
忘れられてないか、捨てられてないか。そして私の脳裏に浮かぶ五条悟という男の姿が遠目ではちゃんと悟だって分かるのに近くだとどんなんだっけ?と少しずつ曖昧になっていくのが。
もしかしたら私はここに1ヶ月くらいいるのかもしれない。多くのストレスと恐怖と痛みで頼れる人も居なくて…孤独に震えた。