第13章 磨りガラスの想い出
111.
今日も檻の中の硬い床に敷かれた布団で目覚め、最悪な一日が始まる。ここに連れて来られて何日目なんだか……全く時間が分からない、今が何日すらも。
背中側になんかボタンみたいな器具が付いている。ワイヤーが腹部から貫通し背中で一本一本が止められてるような(見えないからこそ想像するしか無いんだけれど)腹部から20センチ程飛び出たワイヤー。これは日常生活や眠る時に邪魔にならないように短くされたらしいんだけれど、数日前に馬鹿め、簡単に取れるんだよと外していたら見付かった。そりゃあワイヤー外せても鉄格子をどうも出来ないから見付かるのも仕方ないってわけで。
あの顎髭野郎を連れて来られてワイヤーの付け直しの後にバリバリッ!……と、お仕置きをされてしまった。
そのお仕置きをされて以降、"ワイヤーを伝わせて電気を流す"というお仕置きが日課になってしまっていた。
私が人の怪我を治せるように、自分も治せるから死なない程度に痛めつけていくお仕置き。
そのお仕置きを使った、今から始まるだろうルーティンも3日前程から続いている。
カツ、カツカツ…。目の前に止まる3人の人物。
クリミア、ボス、私の嫌いなビリビリ無精髭野郎。
無表情のクリミア、にこにこしたボスとニタニタした顎髭。ボスが口を開く。
「もはやこちらが毎朝の日課となりましたね。今日もいつもと同じく質問させて頂きますよ、みたらいハルカ。最後の質問にしてほしいんですけれどねえ…?」
檻の前に立つボスはそのガタイの良さに似合わない爽やかな笑みをしている。
この時点で出来レース。ただ私を痛めつけるだけの日課。その悪夢のような日課から逃げ出したければ"縛り"を受け入れれば良い、けど私は道具の人生はまっぴらごめんだった。今まで…いや、祖母までの春日だと思って貰っちゃ困る。母の世代からはもう、自分の為に生きて良いのだと、道具ではない人として生きていて良いんだと思いたい。
だから2日前から質問をされる前に断ってる。
『断る、縛りなんてしない!』
ふう、と残念そうにため息を吐いてボスが一言、彼女の名前を呼んだ。クリミア、と。
「……"アンカー"」