第12章 愛し君の喪失
野薔薇や恵のつっこみにニコーっと笑顔で答える。
いや、マジで忙しいっての。唯一の癒やしのハルカが居ない、もう彼女が居なくなって10日は経過する。
治癒し続けてるって事は生きているのは確か。五条パワーで奇跡を体験した人達の中の2名に話を聞いた所ハルカと"思わしき"人に治されたって話。
思わしきってどういう事?と聞けば、顔を垂れた布で隠され、少し屈んだ際に見えたのは目元は隠され、口元も粘着テープが貼られていた……という話。皮肉な事にその状態って彼女の領域内の春日の一族を想像出来た。
縛りをしていたらいくらかマシな対応だろうけれどその時点ではきっと抵抗し続けてるのは間違いない。結構ハルカって頑固だしねぇ……結婚を引き伸ばされたのもそうだけれど、卒業まで赤ちゃんは作らせてくれないっていうし。言い出しっぺは僕だった気もするけど。
ハルカの机で足を組み、次の一手を考える。スーツなら社会に溶け込めるとか思ってんだろうけど、こっちからは動きが見やすくて困っちゃうよ。何度も出入りしてりゃアジトの場所も把握出来るし、今じゃ治療済の有名人達も入る時は幸薄く、出る時はうっきうきとかさあ。本当に頭良いんだか悪いんだか分かんないやつ。
アジトの位置は完全把握。後は何をやってるのかや構成員とハルカの現在の安否についてか。
「……うーん、そろそろこちらからスパイでも送り始めますかねー」
「俺!俺行く俺!」
「虎杖じゃスパイには向かないだろ、それに俺達はあちら側に顔割れてる筈だ」
「恵の言う通り、僕や皆は無理だよ。少なくとも博物館でまじまじと監視されてたからねー」
しょんぼりする悠仁の背を野薔薇がどんまい!と叩く。協力する意気込みはありがたいんだけれどね。今僕達が舞台の上に立ってしまったら全てが水の泡になる。
両手の指先を合わせて考えに耽った。ここはひとまず顔の割れていないはずの伊地知に奇跡を体験しに行く患者として行ってもらおうか。
それから組織に入り込むヤツも必要になるな。有能なやつだと良いけど……あいつかな?間を置いてまた患者を送り込んで見るのも良い。
「んっふっふ……計画的に徹底的にボコしちゃお!」
奇妙だと見られてる視線を感じながら教室を去る。
医務室に伊地知を呼び出して。
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