第12章 愛し君の喪失
「思ったより春日の一族はタフだ。それはそれで良いのですけれど。エネルギーを得るためにはまだまだ掛かります、よって本日全員に一度春日の治癒を体験して頂きます。
また今日と同じ体験をしたいのならば今まで通りのんびりされて構いませんが、痛みが嫌いでしたら悲劇をもつ、たくさんの非術者達に影響のある顧客を引っ張ってくると良いでしょう。
ハルカが自室で待機する時間を減らし、顧客が回転していくくらいがベストですねぇ…?」
"はい!"
軍隊のような整列と揃いすぎた大きな返事にびくっとした。
ボスは革靴を鳴らし、整列するメンバーの前をゆっくりと行き来している。
「ですが、急にとは言いません。多くが五体満足、悲劇がそう起こることはまずありません。見つけ出すのも苦労するでしょう。
まずお試しに今日体験して頂き……そうですね、2日後に成果の出ていないものはもう一度今から行う治癒の実験とエネルギーの補充に協力をして頂きます。そしてまた2日後、また2日後……そのうち噂になって全国から問い合わせが来るはずです。ひっきりなしにハルカが忙しくなってくれれば治癒という実験をあなた達に経験させません」
"はい!"
そう聞いてしまうと展開が読めた。
このボスは刀でこの人らを斬る。そして私に治させるつもりだ。場所も想像するに、腕……かな。シャツが汚れないようにしていたから。
カツ、カツ、カツ。
私のすぐ近くにボスが来ると、整列した端の中肉中背、年は30~35歳程、茶色で短髪の男が大股でやって来る。
片腕をボスの前に出した所でボスは首を傾げた。
「片腕だけじゃないですよ、全員両腕でしょう?春日の治癒力を侮ってはいけません。生まれつきなら仕方なくも時間が掛かった怪我もたちまち治してしまう……それは命を蝕む病ですらも。
持病もちの方には今回の体験はさぞありがたい事でしょうね。些細な怪我を持つ者はこの際綺麗サッパリ治して貰いなさい。
ああ、あとそれから。リベルタから抜けるなどと言う場合は全臓器を3度程抜かせて頂きますよ。大丈夫、死にはしません。春日ありきの事ですからね?」
ぞくりとした。物腰柔らかにとてもヤバイ事を言ってる。私はここにやってきて5日程。いや6日?一週間は経ってないと思いたいんだけれど。
窮屈な檻の中と治癒ばかりにこんな恐怖を与えられて気が狂いそうになる。