第12章 愛し君の喪失
妖艶な笑みを拾って切れる通話。覗き込んだ傑と目が合った。
こいつもにやにやと笑っていた。何をするかってそりゃあ決まってるだろ。
リベルタを出し抜いてやる、こっちにはとっておきがあるんだからな。クククッ、と笑みが零れた。
「よーし!保険の出番だな!傑ー、僕の役所への出陣に共に着いて来たまえ!」
ベッドから小走りで戸棚へ。ガサガサとしまった場所からクリアファイルに挟んだ全て記入済みの物を取り出す。記入漏れは無い、それに口付けて天へと掲げた。
背後で呆れた様な笑い声が聞こえる。
「なんで野郎同士で婚姻届を提出に行くんだい…子供じゃないんだ、それくらいひとりで行きなよ…本来ならハルカと行くべきだったろうけれど」
「後でハルカに怒られた時に傑に負担も分け合えるからな!僕だけ怒られるのはやだ!」
「最悪だな、君は……痛み分けに使うのかい、私を……」
眠気なんて吹っ飛んだ。
嫌そうな傑の袖を引っ張って僕はハルカとの人生の"縛り"をしに玄関で急いで靴を履く。
キミが一緒に居ないのは寂しいけれど、本当は10回目のデートの時に一緒に行きたかったのだけれど。
他のヤツに取られるのならば強引に"縛り"をしてやる。何度も何度も確認しやがって…安全だと見てこれから婚姻届を書いて無理矢理ハルカをものにしてやろうってのが見え見えなんだよ。
……案の定、受付の子が苦笑いしながら受理してくれた。
間に合って良かった。一つの大事なものの防衛が出来たら全身に疲れが。今日はやれることをした。大きな進歩であり、見えない彼女を陰ながら守れた感。
「ふらついているね、大丈夫かい、悟?」
覗き込む傑は心配そうにしている。
嘘ついてまで元気なフリをしなくたって良い。これ以上、今の僕に陰ながら出来る事は無い、なら待機中は万全でなければと思った。
「……うーん、駄目だわ!ちょっと部屋行って休む」
この日からちゃんと態勢を整える様に努力を始める。ハルカを取り戻すために。