第2章 視界から呪いへの鎹
男は自身を指差して、少し前傾姿勢を取る。近い、というか背がでかいから話を私に合わせて……だろうけれどね。
近いほどに目元は外側からじゃ見えなくて、何のために目隠ししてるんだろう?と勘ぐってしまう。目が見えないわけじゃないのに…傷でもあるんだろうか……。
「僕は五条悟。悟、で良いよ、キミの名前を教えて欲しいなぁ?」
少しだけ、悟から距離を取って、私は小さく、ハルカとだけ名乗る。この人、めっちゃ馴れ馴れしいわ、ホント。
怪しむ私に、更に意味不明な言葉を追加された。
「ねえねえ、ハルカちゃん。白くするんだったら美容室断っときなよ」
『えっ……?』
訳がわからない人。急にそんな事言われてもこっちは前から予約を入れているのに。
しかも、なかなか予約が取れなかった所だ。それも新規……いつもの場所じゃなく、これは何となく別の場所でという気分で決めたことだった。
気まぐれだったとは言え、予約が取れたのなら行きたい。急に見知らぬ人に断れと言われて断るわけが無かった。
私は半歩、悟から下がる。
『せっかく取れた予約だし、私は行くつもりだけれど』
うーん、と声に出して考えてる悟。
もう行かないと、と言葉をそこに残してそこから離れて目的地に私は歩を進めた。
背まである髪を全部白に塗り替える。やりすぎかなぁ、金髪くらいなら目立たないだろうに、なんで私は白にしようと思ったんだっけ?
……ああ、そうだ。理由は"アレ"だ。脳裏に浮かぶ今は亡き母の姿。
けれども悟に急に言われた事が引っかかった。本能的というか、なんというか。
やっぱり止めたほうが……でも、せっかくの予約が……。
がし、と手首を誰かに掴まれた。女性じゃない、男性だと手の感覚で分かる。
驚いたそのままに振り返る。
「ハルカちゃん、どうしても行くのなら今はメッシュ程度にしておきなよ?全部白にするにはちょーっと勇気いるでしょ?メッシュならお洒落だしさぁ~」
じゃね!と手を離し、その手を上げて去っていく悟はヘラヘラと笑いながら去っていった。
……メッシュ、かぁ。
『サイドにでも入れてみようかな……』
自分の髪を指先で遊んで、止めた脚を進めていった。