第12章 愛し君の喪失
あのガタイの良い、リベルタの男だ。
声色は随分と楽しそうで、口調からして接客中なのかな?と考察してる。
次に聞こえてくるのは女性の声だった。
「ほ、本当ですか…!一度は諦めた選手への道を…!」
「さあ、そのものに手を触れさせて下さい。今日からあなたは事故前の現役生活へと戻れるのですから」
ああ、見えないようにするのは私だけじゃなくて、その"お客さん"からにも見えないようにする為か。明らかに監禁されてるって分かるし、自由にすれば私は逃げ出すし……うん、自信を持って私は逃げ出すね。
文句も言えない私の手首を細く冷たい手が触れる。私の手首を掴んだまま暖かい少し筋肉質な肉体へと触れさせる。一部分は布が巻かれて……ああ、包帯かもしれない。
声は女性だった、やり取りからしてスポーツ選手。やけに触れた体が筋肉質なのも納得。私が何もせずに役立たずだったら処分されてしまう、と考えて素直に式髪でその触れた人から怪我などの"負"を吸い取る。
──そういえば、最近事故で脚を切断した選手が居ると報道していた気が……。もしかして、この人だったりして。顔が見れたら一発なのに見えないのがもどかしい。悟なら見えたのかな……?
ミチミチミチ…と肉の盛り上がる音。触れた手に感じる包帯が緩んだ感触、包帯が取れても包帯越しに皮膚が少し突っ張る感じを手のひらで感じ取る。
「あっ…すご、こっ…これが奇跡の力……っ!」
さっきまでの必死な声とは違う、女性の歓喜の声。
目が塞がれている今はいつまで治療すれば良いのか分からない。手首を掴まれて引っ込められるように離されて。
私はそのまま背を押されて補助されながら進む。
「部屋に帰ります、進みなさい」
「……あの、ありがとうございます!」
『……』
見えないからこそ、声が掛けられるんだろうけれど何も言うことが出来ない。
お礼なら私をここから出して。高専、いいや警察で良いから通報して。そんな意志は伝えられずに歩は進められ、背後でドアが閉まる絶望の音が聴こえた。
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