第12章 愛し君の喪失
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捕まってその一夜を檻の中、と呼ばれるあまりにも無機質な空間で過ごした。布団は硬い床に直に敷かれ、その他の物は一切ない。身長よりもはるかに上…天井近くの壁に横長の細い窓はあるけど抜け出せそうもない等間隔の鉄格子で塞がれている。
三面は壁、その一面は鉄格子付きの窓。残り一面は鉄格子。直に通路に繋がってる。
鉄格子沿い、全てが見られる状態できっと私よりは年が上の女性に私は常に世話される事となった。トイレに行く時とか入浴時とか。手は縛られて開放される事はほぼなく、トイレはウォッシュレットで世話をする女性に最後にペーパーで拭かれるし、お風呂もゴシゴシ洗われる。一切の隙が無かった。大人であって自分で出来る事なのに、それらを人にやってもらうのは恥ずかしさを通り越してる。
敵意は無い、ホントに真面目なやつなんだろうとは思うけれど。その世話役が居ない時はずっと、高専の皆を考えていた。
居ない!ってなってるのかな。それとも明日になってハルカは?みたらい居なくね?って分かるのかな。
悟は大丈夫かな。悟の事だからいち早く気が付いてそうだけれど、私がこうもあっさりと拉致されたって知ったら呆れてしまうかも。ああ、今週末にはここから出て帰れるかな?父ちゃんや兄貴に会わせるって言ったしね……。
気が付けば頭の中が朝から晩まで過ごしてる彼ばかりを考えている。不自由な手で布団に入って眠って。起きたら拉致されてたのは夢なんかじゃない、そのまんま最悪の現実で絶望する。
制服はもう取り上げられ、新しく入院着みたいな服を着せられた。目隠しをされて、口にガムテープを貼られる。どっか移動するのかな、と頼りになるのは鼻と耳だけ。
世話役の女性に口と目を塞がれての移動の補佐。額にするっ…と何かを回され、後頭部で縛られてる。頬や鼻の頭に布の感触…目隠ししてるのに、更にって……別にここまでするか?疑問に思いながらも口が開けないから質問も出来やしなかった。
「前へ、進みなさい」
『……』
その理由が分かる。耳から垂れ流して入ってくる情報。
「ああ…切断された脚をですね。はい、少々お待ちを…完璧にリスクのない選手生命の道へと我々が復帰させて差し上げましょう」