第12章 愛し君の喪失
「五条悟ですか?随分と仲が宜しくヒヤヒヤしましたが……まだあなたは未婚のまま。その状態でこちらに来てくれて良かった」
フフ、と笑って煙草を咥えたリベルタの男は空いた手でライターを取り出し、端から火を着けた。
きっとその一枚も、悟が丁寧に書いてたもの。大事に書いてにこにこしながら可愛らしくポチ袋になんか詰め込んで、星のシールなんか貼っちゃって…。
……想い出のひとつを目の前で灰にしていく。
『……よく、目の前で燃やせたね。私と悟のひとつの想い出なのに…っ!』
綺麗に拭かれたガラスのテーブルに灰が落ちる。それを、片手に煙草を持ち、息を吸った男は私の方へと息を吹きかけた。
テーブルの上の婚姻届だった灰と、煙草の煙が掛かって数度げほげほっ、とむせる。
「五条悟とはなかった事にしてください。あちらさんにはいくらでも女性は寄って来るでしょう?あなたには感情なんて必要なく、ひたすらに子作りに励んで頂きたいのですよ。
それに当たって私共の下で春日一族を繁栄させるのなら、まずは戸籍が重要ですからねぇ。
で、縛りをする、で宜しいのですね?リベルタの為だけに治療を死ぬまでし続けるという事を」
……この室内から見える窓。一階とかじゃなさそうだ。反転術式が使えれば数階程度ならクッションにして出来たろうに、窓を破って逃げられない。
だからって"縛り"を…その条件をその場凌ぎって事で飲めない。簡単にするな、と口酸っぱく聞いてる、重要な事。
私は男を睨んだ。
『断る。私は生きるために呪術師の道を選んだ、そんな狭いゲージの中での生きる事を望んじゃいない』
祖母に近い考えじゃないか、リベルタ。
男は残念です、といって照明を反射する綺麗なガラスのテーブルに煙草を揉み消して私を見た。
「交渉決裂ですね。それなりの対応をさせて貰いましょう……おい、こいつを檻に入れなさい」
「「はっ!」」
ドアから入ってきたのは男がふたり。拘束されてむやみに抵抗が出来るわけがなく。
私はかつて見た、ゴリラみたいな筋肉男と散々殴った細めの男に抱えられてその部屋から連れ出されていった。