第12章 愛し君の喪失
そこからの目覚めだ。体調?飲み物?もっと気を使うべきモンってのがあるだろ。
鼻で目の前の男を笑った。
『気分最悪。早く帰して貰えません?歓迎のお茶とか要らないんで』
目の前の男は少しやれやれといった感じで笑っていた。
「あなたはご自分の立場が理解出来てないようですね?」
『そういうあんたこそお天道様の下で堂々と言える様な事してんの?それを理解して話してるワケ?麻袋詰めて拘束なんてしてさ』
麻袋に人間入れて運んで人の手首を縛るとか、当たり前なくらいに堂々として良いものじゃない。犯罪だ。
そして任務中、許可を得て入ってた博物館にも侵入してた。立入禁止のバーもあったはず……、こいつらどれだけ罪重ねてんの。
目の前の男はふん、と鼻で笑う。
「今は理解されずとも呪術師が非術師の上に立つ時代がくれば、それも常識になる」
それも常識…?人を拐う事が常識になると、この男は誇らしげに言ってるのか…。
驚きの中で、学校生活で初めて知った呪術界の常識を記憶から引っ張り出す。
『…はあー?あ、ああ…そうか。きっとあんたらみたいなのを呪詛師っていうのか。
はー初めて見たわー、これが呪詛師ねー?自らの欲望の為に術使って非術師をカースト制度の下層扱いする、呪詛師ねー?
…で?なんとなく私を拉致した理由が想像出来るけど私をこうする理由、聞いてみても良い?』
呪詛師の顔を覗き込みありきたりであろう答えを引き出そうとする。
可能であれば逃亡したいけど出来ない。ならば情報を集めるしか無い。麻袋からの運搬、多分車を使っただろうけれど気を失っていたから時間の経過は分からない。長時間じゃないのなら関西ではない…筈。車でそんなに移動しない距離なはずだ。
男はすっ…、とジャケットから煙草を取り出し、ジッポライターをカンッ!と良い音を鳴らして火を着けた。
「…ふーっ…、まずあなたには特別なお客様達の治療をし続けて頂きます。それに当たってですが対応が雲泥の差になるんですがね?
私共と"縛り"…してみませんか?」