第12章 愛し君の喪失
……まさかの展開は無いとは思うけれど、あの子の様に顔もぼんやりと思い出せない存在にしたくない。今は鮮明に分かるハルカの顔も声も香りも…感触も。確かに愛しているという気持ちがあるから、あの子のような結末のようにハルカを殺されたくない。
携帯がここにあるって事は連絡が取れないという事。冥さんの連絡が一番頼れる筈だけれどそれまでは居ても立っても居られない。
「ハルカ……、」
姿の見えないキミの無事をただ祈るしか出来なかった。
****
『………うっ、』
横たわって私が寝かされていたのは革張りのソファー。本物の革らしく寝起き早々に眼前の生地が獣臭いという感想。
身を起こせば両手は前で縛られている。縛るにしては新品のものじゃなくて年季の入った縄。
服は気を失う前と同じ制服のまま。そしてソファーの前には高そうな大きなガラスのテーブル、向かいに座るのは大股開きで座ってる男。
スーツを着ていて色は七海のスーツと同じタイプ。太っているというよりは筋肉質というべきか。とてもガタイがいい。
起き上がった私と目が合うなり、筋肉質な割には少しだけ印象の良い笑みを浮かべた。
「お目覚めですか。体調はどうです?何かお飲み物はいかがでしょうか?」
変に気を遣われてもなぁ。人攫いされてこっちはムカムカしてるんだけど。気を失う前までの記憶をはっきりと覚えていた。