第12章 愛し君の喪失
107.
ハルカが最後に目撃された博物館の女子トイレに夜中に忍び込む。先に連絡は入れてあるからセキュリティーが反応する事はないはず。
壁沿いの電気のスイッチをパチパチ、と着ける。瞬く様に点滅後天井部の蛍光灯が室内を照らした。個室が4つと清掃用具の扉が並んでいた。
寮で話を聞いた後、着いてきそうだった一年の皆にはちゃんと休んで明日もしっかり学校行きなさい!と言ってある。それでも着いてきそうだったから追撃するように、手が欲しい時は呼ぶから今は休んで欲しいんだと頼んだ。僕も、悠仁達3人も若干責任を感じてる。ハルカの言葉が足りなかった、僕のいつものふざけたやりとりが裏目に出た、3人の思い込みだった…それら全てが合致しての空白。その隙が今回のハルカの消息不明に当てはまってしまった。
二年の子達が言っていた、ええと…パンダだったか?ハルカはトラブルメーカー、呪い以外も呼び寄せてるだろ、とか言ってたなあ……。
静か過ぎる場所でコッコッ、と僕の靴だけがタイルの上で音を鳴らし、サングラスから見える世界にはハルカの痕跡がうっすらと見えた。
ドアが全開になってる女子トイレと閉まりっぱなしの清掃用具入れ。開館前の洋式トイレは全部蓋が閉じていて、視線を落とせばドアと仕切りの下に見える落とし物。他の利用客なはずはない、見慣れたスマートフォンの色。
持ち上げて電源ボタンを一度押すとこっそりと僕の自撮りに変えておいた壁紙と現在の時刻、9時48分、そして僕が送った通知"好きだよ"が表示されていた。
携帯を落とす、という事はただ事じゃないだろ…これ。
「ふー…、ここから辿るか……、」
ハルカの携帯をポケットにしまいこんで、このトイレの空間に目を細め、個室で何か暴れたような痕跡を見る。個室内からの血液はハルカの痕跡を感じられない……彼女の血じゃない。となれば……。
また、呪術を使った痕跡もある、ハルカのじゃない。僕の既婚歴に悩んだりして、もしも誰かに誘われてほいほい着いていくってわけじゃなさそうだ。しっかりとしてる子だから、悩んでも着いていかない。拒絶したんだと思う。