第12章 愛し君の喪失
「っんだよ見掛け倒しじゃねーか!治癒もしねえ、ただの春日の名が付くガキだ!」
"っ……ひっ、"
振り下ろす勢いは胸部へ。
良く手入れのされた庭を駆け、その悲鳴の主にと駆け寄ったよ。でも既に手遅れだった。
その場で僕が出来た事は硝子に頼んで死亡証明書を遅らせる事とその間その子と結婚したという事にしたって事。いわゆる冥婚とも言える、死んだ相手との結婚…あくまでも書面の上だけ。はは…偽装結婚ね、冥婚よりそっちの方があってるかもねっ!
これだけが希望と言ってた彼女に対して出来る事だったのは、少しの間の繋がりといくらかの春日の分家に対する支援。それをすることで彼女の一家も僅かながら救われた。五条家の息が掛かるから守られるし…。
死んだ彼女には兄弟が居た。それは本家に丁稚奉公しに行ったと聞いていた。
他にも姉妹が居た。でも後から線香をあげに行った時に見たのは一番長女である死んだ彼女が苦労していたのだと知った。稚すぎる姉妹達の面倒は大変そうで、彼女の次に大きかった唯一の男兄弟…弟は本家に行ってしまったから。
初めての春日の本家へと足を踏み入れる僕。随分と守りが効いてるな、と屋敷の門を叩く。
そこで出会ったのが後に知る、ハルカの許婚の龍太郎。ほら、前に言わなかったっけ?ハルカがさーお風呂入ってからその人が乱入してきて手を出されかけ……
あっ、そこまで言ってなかった?ごっめーん、今のは忘れて!バレたらハルカに僕殴られちゃうからさっ!
……龍太郎っていうのはね、僕が冥婚した彼女の弟だったんだよ。え?何、こんがらがってきたって?物事ってのは意外とこんがらがってんのよ、野薔薇。世の中、スパゲッティみたいに複雑に絡んでるものさ……なーんてちょっと前にそんな言葉をどっかで僕目にしたんだけれど。
そして龍太郎の姉の死亡経緯を話して怒られるだろうなと思っていたけれど、彼はとても出来た人間でね。"姉や家族の為に…ありがとうございました"って頭を深々と下げていたよ。