第12章 愛し君の喪失
短く私の口から空笑いが出る。母への返しはただ、それだけ。
それをフォローするように母は続ける。
「結婚迫るって事は重婚出来ないはずだし離婚は成立してる筈よ!いや、とっくに死んでるあの子の事だから揉める事が出来ないはずだし…婆ちゃん家にも…ええと、龍太郎君も居るんでしょ?」
色々とワケが分からない。
あの子って誰?死んでるって?揉める事が出来ないって?なんでそこで龍太郎が出てくるの?
思考回路がぐっちゃぐちゃ。落ち着かなきゃ現実にもこの心を持っていってしまう。でも落ち着けない。
「ハルカ、ちゃんと話し合いな。話し合う前から疑って勝手に呪っちゃ駄目だからね?禪院の次は五条を呪っていたら春日一族は身代わりの一族じゃない、呪術師を呪う一族になってくから」
『……うん。ちゃんと、悟と話し合うよ』
話し合える自信が無いけれど、安心させたいからただそう言っただけ。話し合いで傷付く事を知ってしまったらどうしよう。
例えば…死んでもう、敵わない相手をずっと愛していて私はその埋め合わせだったりしたら…。
考えだしたら嫌な事しか考えられない。考えるのは今は止めにしないと。立ち上がって制服の埃を叩いて払う。
もう私が連れてきた呪霊は居ない。余裕のない状態で私は領域内から現実へと帰っていった。
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「ふーっ!終わった終わった!」
伸びをする虎杖。
戻ってくればこっちの展示室にいたあの呪霊は祓い終えていて、奥の小展示室の低級の呪いを祓い終えた後は来る時よりものんびりとした速度で引き換えしていった。
反転術式を出す分も無い私は後ろから付いていく。戦っても体術、今の私は引き寄せるのと回復のサポートだけだし。
さっき程の奥の方の残党を祓う為にと、いくつかある小展示室を回る時、戦える3人は皆散っていった。私は伏黒に付いていき、ふたりには聞こえないようにこっそりと聞いた…悟の事を。
伏黒ならば私よりも先に、そして長く悟と一緒に居たから知ってるかもしれないって思って。