第12章 愛し君の喪失
そうだった、と顔に熱が上がってくる。母の顔を直視出来ない。
母の前でキス…とか、ハードモードじゃん、何してくれてんの、悟。ひとり恥ずかしいんだけれど!
『あれは……その…、きょ、今日はここには連れてきてないけど?一応私は生徒で、あの、悟は先生だしね!外で待機してるっていうか…』
顔を隠す布を持ち上げふふ、と母は笑う。視線を向ければ柔らかい表情はすぐに真面目な顔になった。
「教師ね……呪術に関しての。良いんじゃない?そういうのは無駄にはならないよ。
ここもね、ただの戦闘領域じゃない学びの場。白髪化したらじゃんじゃん来なさいね。母さん含む歴戦の猛者達がどういう戦いをしたかとか、春日についてを詳しく知れる場所なんだから。
書物に残されたものだけが秘伝の技術じゃないのよ、実際に会って聞くことこそが強み。婆ちゃんはその事を知らないのよねー…」
『……うん』
時間はここと現実では違う流れ方をしているのだと聞いて、少しでも多くの情報を知ろうと話を聞いていく。
初代である鎹は式神が使えていた。それは一部ではあるけれど、式神から式髪へと乗り換えていった。禪院への呪いは誰よりも強いけれども戦闘に関しては強いってわけじゃない。でも式神と式髪両方が使えるのは強みではある。
ちなみに鎹以降は式神を使わなくなってしまった。春日として術式を乗り換えてしまったから。
『──へぇー…』
「つまりは術式を皆アイディア次第で使ってるってわけね。拡張術式って言うんだっけ?」
母さん、ハルカのような専門学校に行ってないから分からないんだけれどね、と笑ってる。
乾いた地面の枯れ草の上、母の手に手を乗せた。
手の感覚があるのに体温を感じない。冷たくもなく暖かくもなく…質感あっても体温がない。悟の無限を人型に固めたみたいな感じだ。触ってるけど違う…みたいな。
「ねえ、ハルカ。悟君とはもう結婚したの?」
『いいや、まだだよ。後少しで籍入れるくらいまで来てるけど』