第12章 愛し君の喪失
105.
赤や黒に塗りつぶされたような禍々しい世界、現実が地獄に塗り替わって早々に反転術式を使う。
しゅるるっ、と槍状に形成した式髪を握りしめ、近くにいた骨ばった呪霊を乾いた大地に突き刺し、空いた手で頭部を殴り飛ばす。
確かな手応え、飛ばした先でその頭蓋骨がコンッ、と軽そうな音を立てていた。
乱雑した朽ちた墓石にバウンドでもしたんでしょ、頼りない骨の胴体に君臨する、頭部を失った体は呪力の炎に焼かれ朽ちていった。
突き刺した槍は貫いていたものが消え去ってただ地面に刺さったまま。それを引っこ抜きながら周囲の光景を見た。
風景も地獄だけれど、残り3体を我先にと奪い合うようなリンチ会場…これこそが地獄。延々と伸びる自由自在な髪や鞭、バットのような形状にする者もいれば抵抗出来ないように押さえつける者。櫛形に加工してる人も居る。
様々な地獄を呪霊に浴びせ、私の母が今骨っぽい頭部を素手でバキ、と音を立てながらえいやっ!ともぎ取っていた。蛮族かよ。
ははは…と笑ってしまったけれどその笑いも引っ込む。初めての任務で私も首を掲げてたわ。みたらいリョウコの娘であるならば蛮族の娘は蛮族……
ハッとした。いや、これは悟には言わないでおこうっと。しばらく言われるネタを提供したくないし。
体感、2分もしない出来事の中でこの空間も上手く使えるようになってきたかな、と燃えて消え去る呪霊の頭部をそこらに廃棄する母に手を振った。
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周囲の先祖達はのんびりと枯れた木に寄りかかったり、墓石に座ったり、棺桶に並んで座っていたりとリラックスしている。こういう所が女子の集まりなんだろうって思える。お茶菓子でもあれば普通にわいわいとお茶会でもしていそうな…。ここ、口にするものないから出来ないだけで…そもそも死者が食事を摂る必要がないか。
母が木の根元の乾いた地面に座って手招いている。私も母が拘束されていた木の根元に並んで座った。
「今日はお熱い彼氏は居ないのかな?」
お熱い…。
前回は悟と一緒に来た時に色々な重大発表をしに来たんだった。結婚する事、春日家を五条家で買った事…。そして母の本当にこの人で良いの?に対して悟は皆の前で思いっきり逃げる事の出来ないキスをしてきていた。