第12章 愛し君の喪失
「進行方向、正面に居る。警戒怠るなよ」
「警告されずとも。
大丈夫よ、両サイドがら空きだし回避スペースは充分あるわ。それに不意打ち食らっても多少の怪我はすぐ復帰出来るしね」
進行方向…私達の眼の前。およそ10メートルは離れた先に妙な呪いが立ち尽くしてる。私の攻撃によって燃えていた小さめの呪いが鎮火し、燃えカスのようにサラサラと消えていった。
再びの薄暗い展示室内。うーん、と唸る野薔薇の横顔を見る。
「にしても奇妙ね……ハルカのホイホイも効いてない」
『そのホイホイっていうのさー』
「みたらいホイホイで来ない呪いとかいんの?」
『ああ、うん…私はホイホイだよね……呪いホイホイ…ブラックキャップ、じゃないやカースキャップ…』
「そこで諦めんのかよ……」
抵抗を諦め様子を伺う。来場者の為の幅を広めにとってある通路のど真ん中に一体の呪いが居る。人型にしてはひょろっとしていて、身長はきっと私達よりも大きい。目や口などの感覚器はここからでは見えない…さっきの呪いを燃やす明るさでも見えなかった。
その呪いの背後…奥の方から何体ものの呪いがふらふらしながらこちらに吸い寄せられているのに、そいつだけは近付くことなく何もせずに立ち尽くしている。
『何もせずに待ってるってのは奇妙だよね』
「そうね、ただボーっとしてるだけじゃないような気がする…なんか罠とか設置してるとか?罠なら直進より遠回りしていった方が良さそうかもね。
どうする?虎杖、伏黒」
目を背けずに細心の注意をしつつ相談をしていると、その個体は片手をすっ…と、動かした。
「…っ!動きを見せたぞ!」
回避をするべきか迎撃するか。見極めようとする中で前方の呪いは、奥から手前側へと引き寄せられてやって来る、二足方向するトカゲのような見た目の低級の呪いをむんずと掴んだ。
ひょろひょろとした体の頭部…先端からミリミリという音を立てつつ真っ二つに割れていく。おそらくはそこが口。
頭や首、胸元まで裂ける口へと捕まえたじたばた暴れる呪いを、自身の胴に詰め込むように突っ込んでいる。
──呪いが呪いを食っている。
そんな状態を私達は見ていた。