第12章 愛し君の喪失
変な緊張しっぱなしよりは良いか、部屋でも外でも変わらない関係くらいの方がお互いにやりやすいのかもな、と五条悟という人物を割と理解出来ていると思う。
多少の奇行にも驚かなくなってきたし……。
「ふーん、7回目ねぇ。
まあ…でも10回に設定して丁度良かったでしょう?交際始めてから期間も丁度良い感じになってるだろうし。あいつのヤバイ部分を多分知っててもハルカは逃げないだろうし」
ずずっ、と熱い一口をすする硝子を眺める。
ヤバイ部分ってどれだろう?つい最近だと事後、開脚された後に下腹部に向かって"ブラジルの皆さんこんにちはー!"ってやられた時だったか(うるさい!と怒ったら黙った)。それとも私が起きて制服に着替えようとしたらギチギチ言わせながら下着から全て悟が着ていた事だろうか?
脳裏に浮かぶ彼の奇行をひとつひとつ思い出す中で、目の前の硝子はカップをデスクに置き、腕を組む。
「……本当にハルカに伝え切れてるのか心配だけど。こればっかりは外野が口出す事じゃないしなぁー…タイミングってのもあるしねぇ…」
『……?』
硝子は一体何を伝えたかったんだろう?私の知らない謎がひとつ生まれる。
その伝えたいものはかつて温泉旅館に行った時の夜の散歩の、何かを言いかけて誤魔化していた悟の件かどうかも分からない。一緒ならひとつの秘密、違うならふたつの秘密。
私はまだ悟について大体を知っているようでもまだまだ知れてない。かなり重要かもしれない事を知らないままにここまで来てしまっている。あと3回のデートまでに教えてくれるのかな、その"なにか"を。
最後に残ったふた口分を呷り、そのまま私の使用済みの紙コップを怒髪天でゴミ箱へと運んだ。そんな横着な私の姿を見て硝子はこらこらと笑っていた。
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午後の呪術実習…いや、課外学習の時間になった。
言い方は違うけれど結局は学習だとか授業という名の付く任務なんだけれど。
高専の外、とある博物館へとやって来る。
「はーい帳下ろしますよ~、良い子の皆は一歩お下がりくださーい!」
『私達は園児かよ』
臨時閉館した博物館。その前で悟と私のやり取りを見た伏黒がやれやれと帳を下ろし始める。
「"闇より出でて闇より黒くその穢れを禊ぎ祓え"」