第12章 愛し君の喪失
ノックしようとドアの前で拳を上げた所でドアが自動的に開けられる。
呪力とか見えるのだからドア前に私が居るのくらい分かるものか、と手を下ろし、部屋の主はドアを開けて私を招いた。
にこにこと嬉しそうで寝る寸前なのか少しはだけた浴衣とサングラス無しの素顔。
「ヘイ!ラッシャイ!」
『ハァーイ、ゴゥジョォ~……
私の言いたいこと、言わずとも分かるよね?』
「うんっ!もちろんだとも!」
一組敷かれた布団、悟は早足でその上に横になり、涅槃のポーズで布団をぱすぱす、と叩いている。よく見りゃ枕が2つ並んで薄さを強調する文字の書かれた長方形の箱やティッシュが枕元にある。
「こちら、元気な12億の悟君受け取り会場となっておりまーす!基本パッケージングでの受け取りだけれど希望とするならオマエの体内で直接受け取ってくれても良いんだよ、ハルカ?」
12億て。4回戦予定してんじゃねーか。この人なんで回数どんどん上げてんのっ!私の握り締める拳が固くなる。
その明らかに性行為を誘う悟に対し、片腕を出して私は首を振った。うん、突っ込んだら今度は15億になりかねない。
『あーそのままで。荷物取りに来ただけだし』
悟の荷物の横に私の荷物や服が見えた。
服はきっちりと丁寧過ぎるほどに畳まれて一番上にブラジャーが鎮座してる。祀るな、乳神か。
不良の如く眉間にシワを寄せた悟がまぁ、喚く喚く。
「なんでっ!楽しみにしてたのに!さっきまで腕立て伏せしてまでえっちするの楽しみにしてたのにっ!これじゃあ夢精コースなんだけれどっ!?」
『今日はホント無理、営業時間というか臨時休業だから。という事で今度こそおやすみねー』
荷物を片手にひとまとめに抱え、リュックに手を伸ばす。
そんな私に焦る悟がなんとか引き留めようと言葉を重ねていった。
「じゃ、じゃあハルカ、キミさ…最低でも2億欲しくない?」
『………どうせ円とか金銭じゃなくて精子の話でしょ、今日何回言ってんの。一回につき2、3億だとか言ってたし。
本日は受取拒否ですぅー』