第12章 愛し君の喪失
102.
「じゃあハルカ、おやスイミー」
随分とにこにことした悟が野薔薇と私の泊まる部屋の前で片手を上げて言う。
なーんか企んでる表情なんだよなぁ。その場でありがとう、と羽織を悟に返しながら私も五条悟語を真似してみる。
『ん、おやスイミー』
手をひらひらと振って悟に何かの違和感を感じながら廊下でお別れ。部屋のドアをノックして鍵を開けて貰った。
トランプにも流石に飽きたであろう、先に帰ってる野薔薇の待つ部屋へと私は戻ってきたのだけれど。くつろいでいたらしい野薔薇は部屋に帰ってきた私を少し疑問を持って迎えてくれた。
「あ、帰ってきた。おかえりーなんか忘れもの?」
『…ただいまー……
あ゙…?』
部屋に入ってすぐに分かる違和感。それはこつ然と無くなってる私の荷物。
鞄も衣服も何もかも、私の痕跡が無い。泥棒に入られたっていうよりも私を狙った犯行…脳裏に浮かぶは先程の何かを企てていた男の笑顔。
部屋に入って固まる中、野薔薇は畳の上に一組だけ敷いた布団の上で座り、携帯を操作しながらイヤフォンを片方摘んで部屋でただ呆然と立ってる私を見上げた。
疑問を表情に浮かべて。
「え?なんだかんだ言いながら先生んとこ行くんじゃないの?嫌よ嫌よも好きのうちって感じにさー…ほら、ハルカの荷物全部無いし…」
『私の意志じゃ無いんだよねー、この状況。
……チッ、野郎、やりやがったなっ!謀りおったなっ!』
拳を握りしめてそのまま崩れるように膝から落ち、畳を殴る。ごすっ、と音を立て私は顔を伏せた。
「仕組まれてたんかい」
『みたいだねー……よし、荷物取りに行こうっと』
畳の上で這いつくばるのを辞めて立ち上がる。
今こそ私物を取り返して、ゆっくりとこっちの部屋で寝るんだから。あっちの部屋で寝る事、即ち合体後の睡眠は休めないやつだし。
「いってらー…あまり期待してないけど。別に私達なんか気にせずにさ、いちゃこらしておきなさいよ。
私はひとりで寝られるけど、五条先生はハルカ無しじゃ無理っていうか、ひとりじゃ寝られないんじゃないの?」
首を横にブンブンと振る私に、けらけら笑って野薔薇は布団に置いていたらしい、外していたイヤフォンで耳を塞いだ。
野薔薇との部屋を出て荷物を確保しているであろう、犯人の部屋へと私単独で突入することにした。
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