第12章 愛し君の喪失
「オマエが呼び寄せるのは呪いじゃなくって五条悟のみにすれば良いのになー」
『呪いも悟もホイホイ呼び寄せてるでしょ、私の場合はさ』
「確かに…!僕、ハルカの気配感じるとつい寄りたくなるもん」
進めていた足は止まってる。温泉街のもっと先にも行けるけれど。
悟は私を向いた。とても真剣な顔で少しばかり悲しい顔にも見えてしまって心配になる程に。
「そういえばね。ハルカに言わないとーって思ってたんだけれど。あの、さ……」
『何?どうしたの?』
「あー…実はね、僕…、」
口ごもる悟は私の目を見る視線が少しずつ下がっていって、空いた片手でがしがしを頭を掻いている。
口元はへの字になって、チッ、と悔しげに舌打ちを零した。
「いや……やっぱ後で。今言ってもさ。
ていうかなーんかオマエ寒そうだしもう旅館帰ろうぜ?……ほら、」
繋いだ手を悟の頬へ、悟に持っていかれて暖かい頬に触れさせられる。私はもう片手を悟の頬へ伸ばして両頬に手を付けた。
両手とも温かさを感じて手のひらには安心感を得る。
……けれども、悟は何か重大そうな事を言いたそうだった。それは私が急かすものじゃないかもしれない。本人のペースでいつか話してくれる事を願うしかない。
精一杯に笑って冷えた手を悟の頬にぺたぺたと触れる。
『ふふ…、悟ぽっかぽかじゃん』
「湯冷めしてんじゃねぇの、ハルカ?大丈夫?僕の布団でぽかぽかに温まる運動、しよっか?9億程の悟くんの分身がオマエの中で5日くらい滞在したいってさ!」
一回につき、3億って言ってたからこの人、調子にのって3回ほどする気らしい。
『断る!調子に乗らないの!さり気なく3ラウンド宣言とか私を旅館で疲れさせないでよ』
「ケチー!……さ、旅館に帰ろう?疲れてるなら早く寝なよ?」
ふたりして笑った後に来た道をゆっくり戻っていく。
時々、他の泊り客とすれ違うけれど夜の温泉街は異世界みたいで目が奪われて、歩きにくいだけじゃなくても歩く速度はゆっくりになる。
戻るまでのふたりきりの時間。繋いだ手と手がちょっとだけ汗ばんでるのを感じながら私達は旅館へと戻った。