第12章 愛し君の喪失
そんな夜の温泉街を歩く私達。外への散策用の旅館が用意してくれた下駄とか履き慣れないな、と私の歩く速度に対して悟はさくさく進めるだろうに気を使っている。
「明日、高専に一回帰ってゆっくりしたらさ。水族館デート行こうよ」
『む、急では?』
はははっ、と笑う悟は母親と幼児が手を繋いでぶんぶんと振り回すように、繋いだ手を前後させる。
「あのね、夜の水族館てのもあんのよ。ライトアップされたクラゲとか雰囲気あると思うよ?それに夜の水族館用のレストラン限定メニューとかもあってねー…そこでディナーデートしようぜ!
……っていうのはデート10回のカウントダウンに含まれない?」
前半元気だったのが後半はちょっぴり苦笑いで。
『急いで回数稼いでる感が拭えないんだけれど……?』
「だって僕、早くオマエが欲しいもーん。籍入れて五条の姓を名乗れるようになったら傑に自慢してやるんだーオマエのハルカじゃねーよ?ってね!」
悟の独占欲も相当なもの。親友にもそうするか。
ぶんぶんと振る繋いだ手。立ち止まって悟を見て、空いた片手でその振り子の様な動きを止める。悟の手を包むように重ねて。
『分かった、明日ね。4回目のデートを水族館って提案したの私だし楽しみにしてる。夜の水族館とか初めてだし』
「やったー!」
重ねた手をそっちのけで繋いだ手は高々を掲げられる。レフリーかよ。
降ろされた繋いだ手、そのまま夜の散歩は進められた。ご機嫌な悟は何かハミングしてる。フンフン、と…リズム的につくってあそぼっ!じゃない。
流石に夜となれば明るい中では出てこないものが居る。呪いがこちらにじわじわと近付いて来ていた。
ハミングが止まり、チッ、と機嫌の悪そうな舌打ち。
「まーた呪いだよ。いっつもデート邪魔されるよねー」
『邪魔されるっていうか…私が呼び寄せてんだけどね』
呪いがスパッ!と空中で切れて消えていく。普通の人には見えないだろう呪いだったものが風が吹いた勢いで攫われて塵よりも細かく消えていった。
止めていた足。羽織を着ていても少しだけ肌寒い。繋いだ手をきゅっと握った。