第12章 愛し君の喪失
「ほらハルカ、散歩の時間ですよー、ほらほら」
『んな犬の散歩みたいにさー…行くけど』
行きたくともひとりで行動は出来ないし気分転換したかったから、悟からの呼びかけは丁度良かった。立ち上がり、シャッフルし終えたトランプを3人に配り始めてる伏黒。察しているらしい。
「3人共あんまり夜ふかししちゃ駄目よ?呪術師たる者…ってか学生こそ睡眠はきちんと取ってこそだからね!」
「デュエル!」
「ちょっと悠仁聞いてる?先生の話聞いて?」
本日9回目になる虎杖の"デュエル!"につっこむ悟を見ながら私は髪を纏めて結う。
『ちょっと散歩してくるわ』
「「「いてらー」」」
賑やかな3人の居る部屋からそのまま廊下に出て、悟は自身が泊まる部屋を指して微笑んだ。
「ちょっと取りに行くものあるから部屋の外で待ってて」
『ん、良いよ』
虎杖と伏黒の部屋の隣、悟は部屋に入るとすぐに出てくる。その片腕にはこの旅館の羽織。悟は部屋の施錠後に私に羽織を肩に掛けてきた。
「はい…、夜だし、外は冬じゃなくても冷えるだろうしね。散歩に行くんならコレ着てきな」
『ありがと。でも私は野薔薇との部屋にあるからこれは悟が着たら?』
私が着てるのは悟の部屋のだし。
悟は首を横に振り私の手を取る。その手は触れて密着すれば暖かい。
「僕はオマエにひっつくから良いのよ。てか手ぇ冷たいね~…部屋に一緒に居たのにこうなの?冷やしちゃ駄目でしょ、女の子がさ?」
『心配ありがと。お酒、入ってないからかなー…』
「日常的にお酒も控えてよー?…さっ!行こ行こっ!」
悟の手をしっかりと握れば暖かい。手も大きいから包まれるようで。
キュッと握るものだから、繋がれた手を見ながらにふふ、と笑われてフロント前を通って……こうして私達は知らない夜の街へと繰り出した。
夜の温泉街は静かで、外でも硫黄の匂いが漂っている。私達が泊まってる場所以外の旅館も賑わっているようで、網戸の部屋からどんちゃん騒ぎが聴こえてきた。
この街は夜も雰囲気がある。街灯が石灯籠をモチーフにしており、とても明るいというわけじゃないけれどそのぼんやりとした明かりが異世界感を醸し出していた。