第12章 愛し君の喪失
……賑やかな夕食後にそれぞれの部屋でのんびりし(一度悟の部屋に悟の荷物だけ置いて、引っ張られそうになりながらも野薔薇との部屋に戻った)、自然と5人でそれぞれの性別毎の暖簾をくぐって行った。悟以外は本日2度目の温泉。
強い硫黄の香りに満ち、むわっとした湿気。木材で四面を囲まれている室内。
黄緑と黄色の間の曖昧な色のにごり湯には私や野薔薇以外にも利用者が浸かっていたり、風呂の縁で涼んでいたりして各々に温泉を堪能していた。
「はあー…高専にも温泉沸いてくれたらなー」
『分かる。ただのボイラーで沸かされたお湯じゃ疲れ取れないもん…』
ちゃぷん、と湯船に浸かり、私も野薔薇もやや朽ち気味な木材の縁に両手を掛け、背中から寄りかかりながら天井を見上げる。換気扇が忙しなく働いていて、天井部分も壁側も意識すればモーター音が聴こえた。ずっと聞いてたらうるさいと思う人も居るかもしれないけれど、モーターが止まったら人が死ぬもんねぇ…。
先週は休みを休めず、そのまま一週間が過ぎてこの場所までの長距離の運転…この温泉旅館に来て良かった。この湯に浸かる一時が幸せだなぁ、だなんて思って目を閉じる。
目を閉じて聞こえてくるのは……。
「先生ー先生ー!見て見て!……ジャングルの奥地の原住民!……ンボ、ンボバボ!」
「やるね、悠仁!じゃあ僕は……プレデターの後半で泥を塗りたくったシュワルツェネッガーだっ!」
「ギャハハハハ!」「ワハハハッ!」
…。
何やってんだ、あっちの男湯では。
「お前らマジでいい加減にしろ!他の利用者もいるんだぞ!
……すいません、お騒がせしてしまって」
「いいんだよぉ、兄ちゃん達!」
男女別の浴室であっても仕切りの上は空いていて会話が筒抜け。一切あちらの姿が見えないというのに会話だけで何が起こっているかが容易に想像出来た。悟と虎杖が泥パックを全身に塗りたくり原住民や体温を感知されないようにしてるシュワちゃんの真似をしていて、伏黒が制止させながらも他の客に笑われている…とまあこんな感じなんだろう。
閉じた瞼を上げ、隣で同じ格好の野薔薇を見ると同じくこちらを向いて目が合う。
『これって中学生の修学旅行だっけ?私慰安旅行のつもりで来てたんだけれど』