第12章 愛し君の喪失
絶対にロクな事言い出さないんだよな、と思いつつ悟側に体を向けて耳に手を添える。そんな私にサングラスの奥の瞳はにこ、と笑って口に手を添えながら私の耳元で少し笑みを含んだ、控えめな悟が囁く。
「浴衣の中、ノーブラじゃん?パンツは履いてんの?履いてないの?どっちなワケ?」
耳を貸すのをやめ、ちょっと悟から引く。ほら、ロクな事言わない!
グラスを片手に持ちながら、ひとくちコーラを飲んでコト、と置いた。野薔薇達はもう食べ始まってるし、私達が揃った事ですき焼きの固形燃料に火が入れられていく。
箸を片手に持ちながら、悟に笑いかけた。
『悟、警察呼ぼっか?』
「やめて?」
悟も箸を取り、少しずつ食べ始める。
全くとんでもない事を耳打ちしてきたな、この人。パンツは流石に履いてるよ。
小鉢の酢の物を摘んでると、かしゃん、と隣で一度箸を置く音でふと悟を見た。お喋りモードだ。
「でもさー、僕のした質問は重要な事なの。そう…、3億のラブ注入に関わる事なんだよねー、テンションがぶち上がるかどうかのさ?」
思わず私も箸をそっと置き、置いていた携帯を取り出す。
ええと、電話の…ダイヤルモードにして…。
『ん、どうやら五条悟先生は豚箱にぶち込まれたいご様子で。分かった、分かった…
えーっと、いち、いち、ぜろ…』
ポチ、ポチ…とタップする私から携帯を急いで取り上げた悟。
「マジで通報はやめて?本気で捕まるもん」
『自覚あるんかい!』
置いた箸を手にとって、ポコポコと主張する小さな鍋を見れば赤身が茶色に染まっていてもう食べごろになっていた。ちら、と見れば虎杖も食べてるし。
『すき焼き煮えてきたっぽいし、変態に構ってる場合じゃないや、食ーべよ』
鍋に伸ばす箸先。
こういう旅館では色んなものが食べられるから良いよねー、と取皿に長ネギや春菊、肉と移す。
「変態?どこに居るの?僕がそいつを成敗してあげようか」
『鏡見てみ?鏡に映る、白髪でニヤケ顔の男が居たら殴っておきなよ、鏡見ずとも自分の頬を自分で殴れば成敗出来るんだけれど』
「アッ僕か~っ!」