第2章 視界から呪いへの鎹
10.
サァー、と静かに襖を開けると、部屋の中心では敷布団がピッタリとくっつき、枕元には箱ティッシュが添えられていましたとさ!チャンチャン!
片方の布団の上でで寝そべる悟は入ってきた私を見てにっこにこだ。わざとやってる。
怒りで沸騰しそうです。
『何やってんの…?』
「覗かれても僕らしっぽりと済ませていますっていう演出?」
『はぁ~~あ?』
敷かれた布団の上、涅槃のポーズでパスパスッともう片方の敷布団を叩いている。おいで~、と。
いや、守ってくれるのは有り難いけれどおふざけが過ぎるっていうか。高校生あたりのノリというべきか……この人は一体何歳なんだろ。
私は自身の背後、襖を親指で指した。
『お風呂上がったからどうぞ?』
「じゃあ行ってこよっと。覗かないでよ?ハルカさんのエッチ!って叫ぶからね?」
『のび太じゃあるまいし、天地がひっくり返ってもしないんだけど?』
サァ、カタン。完全に襖が閉められ、廊下の奥へと進んでいく足音を耳にする。
部屋から遠く離れたのを確認し、私はしゃがんで敷布団を掴み、プライベートラインを保つように引き剥がす。
表面上は恋人を振る舞ってるけれど、あくまでもここでの話。実際は赤の他人の男女だし。その他人の男女が一緒にお風呂に入ったり、密着して寝たりなんてしないはず。
『……これくらいで良いでしょ』
1mは離したはず。よし。
間に仕切りでも置けたら良いけれど無いし。箱ティッシュとバッグを置いておこう。僅かなバリケードだけれど無いよりはマシ。
ひとりうんうん頷いて布団の上に座り、携帯端末を取り出す。
……そういえば、バイト先に連絡してなかった、今の時間は無理だからSNSから先輩経由でひとまず連絡を。明日は家に帰るのか、それとも呪術なり春日についてなり何かを学ぶのか。
呪力ってのはあるけれど、呪術ってのはいまいち分からない。時間で分かる様になるのか……いやもしかしたらきっかけで分かるのかも。今は悟が居るから良いけれど、ずっと居るわけじゃないからいずれは自分ひとりで対処する時が来る。
──怖いなぁ。対処出来るようになれるのかな、私。
『……静かだなあ…、』