第12章 愛し君の喪失
一応誘拐されかけたという話は高専内で共有はしている。
相当ピリついていて車での買い出しでも最低1人は付けろと学長に言われてしまった。そんなに治療要員は貴重か、それとも春日そのものが充電式モバイルバッテリーばりに便利だからなのか。
あの麻袋まで用意してたふたりの顔は覚えたけど、きっと他にも仲間は居るんだろうとは思っている。
ふたりだからなんとかなったけれど10人とかだったら逃げ切れる自信は無いなぁ。
「おっし!行こうぜ!やっぱこういう温泉って言ったら卓球とかも出来る感じ?なあ、なあ!」
『多分無いよー、こじんまりした所だしあっても有料マッサージチェアとか寂れたクレーンゲームくらいじゃない?』
湯治客も居る、温泉の質が良い場所。今回、質を見てここだ!と予約を入れている。
賑やかなのが良かったらちょっと大きめのホテルや旅館だったら卓球くらいはあったかもだけれど。
「えー…勝ち抜き戦とかやりたかったのになー…
じゃあ、今晩はカードゲームで戦おうぜ!」
「虎杖、あんただけ修学旅行気分でしょ…」
賑やかにも傾斜のある歩道を歩き、温泉宿へとぞろぞろと向かっている。運転に集中してようやく解き放たれた、ああ……あくびが出るわ。今夜はぐっすり眠れるだろうけれどせめて今日のうちに2回は温泉に入りたい。そして翌日の朝風呂。これをキメてのんびり高専へと帰る…それで回復出来る。
フロントで手続きをして、鍵を握りしめたら私達はさっさと部屋へ向かった。
****
早速、部屋で荷物を置き、浴衣に着替えて温泉に釘崎を引っ張って入ってきた。
「めっちゃ疲れてんじゃん……大丈夫?」
『んー…へいき、いっかいおふろはいったらもう、このよはえでんよぉ…』
「わー、駄目そう!」
一度温泉に行ってからの女子部屋。硫黄の香り漂う温泉の効果は凄まじく、ぽかぽかかつ疲れが解けていった。
そして嬉しいことに泥が出るタイプの源泉だったらしく浴室には泥パック用バケツが設置されており野薔薇と共に泥を塗ったくってすっきりとしている。
その温泉に浸かってから部屋に戻ったのは良いけれど私の体が睡魔に侵されている。リラックスしすぎたハムスターみたいにい草香る畳の上で転がる私。眠すぎて笑えん、仮眠しよ……。
部屋の座布団を二つ折りにして枕として使い、畳の上で私はごろごろしていた。