第12章 愛し君の喪失
──奥さん、ね。
気が早すぎだよなー、悟は。と思いながら父親や兄に今の悟との関係や同棲してる事、そしてもうすぐ籍を入れるという事をちゃんと言ってない事を思い出す。お土産買っていって、明日は無理でも来週に話してみようかな。
父としっかりと向き合って自由に恋愛を出来るようになって、まさかこんなにも早く結婚するなんて聞いたら父親ひっくり返らないだろうか…?それよりもシスコンな兄も大丈夫だろうか?
私の学生時代を過剰に守っていたスタンド的存在。今はお嫁様に尻に敷かれてデレデレしてるけれど…。
「そろそろウインカー出さなくて良いのか?」
『あっ、右折か』
考え事から運転に集中し、時に伏黒のナビを聞きつつようやく目的地へと辿り着いた。
駐車場に辿り着くまでに車内に外からの匂いが届いてる。硫黄の香りが温泉地にやってきた事を実感させた。
所々用水堀から立ち上がる湯気、酸化するのか、鉄パイプなどからサビが流れた茶色の跡。
それらを見ながら、ようやく旅館の看板を虎杖が指差して「あった!」と騒ぎ、駐車場へと辿り着けた。
バックで入れて、ようやく停車する車。
「みたらい運転おっつー!」
釘崎の声と、元気にドアを開けて外に出る虎杖。より温泉の匂いが強くなる車内。
途中コンビニに寄って休憩はしたけれど、この中で運転出来るのは私だけ。ずっと運転してたから疲れた……けれども、その疲れともここでお別れよ。
『よっしゃめっちゃ湯に浸かるわ』
「部屋行ったらあんたはまず温泉ね!二部屋取ったんでしょ?」
『ん、そうそう。男女別になるようにね』
私は釘崎の言葉に頷く。
元々4人、二部屋で男と女で別れて宿泊する予定。食事は大広間で他の客も居る状況。もしも悟が来るとしても別の予約であるから悟は一部屋に泊まる。悟にはひとりで夜を過ごして貰おうっと。
それぞれ荷物を持って(私は悟の分も)高専から借りたワゴン車にロックを掛ける。
『高専の車、最近レンタカー扱いしてる気がすんなぁ…』
「しょうがねえだろ、あんたは特に個人行動するのが危険なんだから」
『伏黒の言う通りですけれどー…ソロ活動出来ないってのは不便すぎる。まあ、皆でここに来てるし、温泉宿まで誘拐犯は来ないでしょ、流石に』