第11章 その男、心配性につき…。
「パンダ先輩に投げ飛ばされた時にやらかした。頭打ったから頼む、他は擦り傷程度」
『あー…パンダ先輩飛距離出すもんねー……まあ、とりあえず座んなよ、というか座る前に終わるか』
椅子から私は立ち上がり伏黒の前に立つ。伏黒の隣に乙骨。何も言わずとも伏黒は右腕をこちらに出し、袖を捲くるので手で触れて数秒。そして離した。
『はい終わり、額に血めっちゃ着いてるけどこれ、ティッシュね』
「……ってな感じです、先輩」
「ハルカさんはこういう回復特化…、」
差し出したティッシュよりも乙骨に説明を始めた伏黒。受け取らなかったティッシュ箱からぼすぼすと私が数枚ティッシュを抜き取ってその額の血を拭う。
ちょっと嫌な顔をしながら伏黒は私の手からティッシュの塊と、もう片手のティッシュ箱を受け取った。
『乙骨先輩、伏黒の付き添いで来たというより見学……回復マニアなんです?』
そうとも取れる発言故に、新しいバインダーに時刻や伏黒の名前を書きながら質問した。
少しおどおどした乙骨は自身の頭に手をやり、ふにゃりと笑ってる。2年の先輩の中で一番恐怖心を感じない先輩だ。もっと早くに出会いたかった(フードコートカージャック事件とかさー)でも、優しそうが故にあの3人の暴走を止める事は出来無さそうだけれど。
「確かに僕も反転術式で治療は出来るんですけれど、ハルカさんの場合通常での術式で治療を、そして反転術式で攻撃を…と、変わっているっていうのを聞いて。ちょっと興味を持ちまして……」
ほう!私や硝子の他にも他人を治せる人が…しかも生徒に居たんだ!とこっちが興味を持ってしまった。海外に行ってちゃそういう情報も無いわ。
立ったまま書き半端のバインダーにペンを挟んでデスクへとノールックでポイ、と放り投げる。デスクでガタ、と何かちょっと崩れる物音がしたけれどきっと気の所為。壊れるものは置いてないし。
乙骨は私の動作にびくっ、と僅かに跳ねた。