第11章 その男、心配性につき…。
椅子を引いて立ち上がった夏油は携帯を取り出し、にこにことして机に置く。
「何かあれば私も手伝わせて貰おう。近くにいれば駆けつけるからね。だから連絡先を互いに教え合っておかないか?」
『あ…、それはありがたいです』
連絡先を入れていると突き刺さる視線、その方向…言わずもがな悟を見ると心底嫌そうな顔をされてる。
「僕に隠れて傑と連絡取ったりしてさ、浮気すんなよ~?」
『悟じゃないからしませんよーだ
…はい夏油さん、携帯お返しします』
はい、と受け取る夏油と、面白くなさ気な表情の悟。
夏油はお邪魔しました、またねと言って悟の部屋側から帰っていってしまった。隣の部屋側の玄関の音が聞こえて、ふー、とひとつ悟がため息をつく。
この部屋に残されたのは私と悟のふたりだけ。夏油が座っていた椅子に悟が座ると青い目を細めてにっこりと笑う。
「ハルカ、前々からひとりで出掛けるなとは言ってたけどさ。車を使っていても今回の事あるし生徒として…あと、もしも卒業後硝子みたいな事をするなら高専にいる間もかな……。外に出る時は一生誰か側に居ないと駄目ね」
『へっ?一生!?』
「うん。高専内は安心だけれど、それ以外はキミを襲ったようなヤツはいるからね、一生ひとりで行動しちゃ駄目。
だからハルカ…、」
かさ、と音を立てて封筒を取り出す。
……今の動き、机の下からだったな…とそっと机の下を覗くと、机の天板の下に5つほど封筒が貼り付けられていてゾッとした。全てに婚姻届が忍ばせてあるって事、これ…?
体を起こし、笑ってる悟はそのもぎたての封筒から折りたたまれた紙を取り出す。その紙は婚姻届って事は毎日見てるから分かる。
「これに記入してよ。
本当はさー、10回目のデートの時にその場で書いてもらって区役所に行きたかったんだけれど今日のキミの事聞いてたらうかうかしてられないもん」
『……?うかうかしてられないって攫われる事と何か関係してるの?』