第11章 その男、心配性につき…。
ここ、と夏油はうっすら笑う自身の顔を指す。その動作を見ながら自分の顔に手を当て擦ると乾いた血が指に着いた。
多分、あのスーツの男達と揉めて、叩きつけられた時の。乱暴で、逃げる際に怪我を気にしないようにさっさと治していたから、治療済の場所の表面に出た血液の事は気にしてなかった…。
笑いながら考察していく様子を見て悟の側に私は寄る。
『えっ夏油さんって警察官とか探偵とかやってるの?』
聞く私にちょっと体を私側へ傾けた悟は私の耳に手を当て、内緒話をするように返事をくれるけれども声量はそのまま。夏油にも丸聞こえ。
「こんなうさんくせえ警官や探偵いないっての!どちらかっていうと呪術師として行動する時の傑は袈裟着てっから胡散臭い坊主…、」
「悟??」
親友故にか素が出っぱなしの悟に名前を呼んだだけで黙らせた名探偵夏油。悟の口が絵に書いたカニみたいな口してる。
そんなふたりと、追い詰められた私の状況に思わず苦笑いが出てしまった。
「さて、何があったのか教えてご覧?」
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『……で、帰ってこれました』
さっ、と視線を逸らす。目の前には夏油が椅子に座って居て、その夏油の隣に悟が腕を組み、夏油の椅子の背もたれにちょっと体重を乗せつつ立って私を見てる。
分かってる、悪いのは私だって。車ならひとりでも大丈夫って過信してたし今までこういう事が起こった事がなかったから余裕ぶっこいてた。
声量を押さえた夏油。
「ほら、悟。ツケがもうそこまで来てるんだ。行動を起こさないから……せめて保険でも用意しておかないと。もうこれ以上何もしないって事は出来ないよ?」
「チッ、わーってるって!それは……ふたりきりになったらな」
なんの話か分からないけれど今回の拉致未遂事件が起きたことで何かを課せられるって事だけは理解してる。
良くて反省文とか。車移動とかもふたり以上って決まりとか。
……悪くて、何かの"縛り"とか。