第11章 その男、心配性につき…。
96.
高専敷地内にまで来て、何度も追ってきていないかをどきどきしながら確認して、そろーっと車を降りる。安全なのがまだはっきりしないから不安なままに私は急いで荷物を抱えて寮まで走った。
初めてのひとり行動での恐怖だった。高専に着いたとしてもまだ関係者にも会ってない。その状態でまた捕まりそうになったら……。
安心出来るのは寮に帰ってからだ、と自分を鼓舞して急いで寮へ帰る。
ガサガサと音を立て、玄関前で立ち尽くした。
自分が焦りながら帰ったら何か絶対にあったな、と勘付かれる。深呼吸をしてからゆっくりと何事もなかった…というフリをしよう、そうしよう。
落ち着いた状態になってから私はドアを開けた。
『ただいまー…』
がさ、と音を立て玄関からそのまま中へ。
ひょこ、と悟がこちらに顔を出して玄関近くまできて、私と荷物をじろじろと見ている。
「あれ、医務室に行ったにしては随分………
ちょっとキミ何買い物しに出掛けちゃってんのさ?」
悟が玄関まで来たので、片手の買い物袋を差し出すと受け取ってくれた。片方の荷物が無くなったのでもりもりのもう片手の買い物袋を半々にして部屋に入った。
悟が淹れたんだろう、お茶を出されてのんびりとしてる夏油がキッチン前のテーブルで肘をついてこちらを見ている。
……この様子じゃあ仲直り出来たのかな、悟。仲直りが出来たのだったら良かった。
口を尖らせながら買ってきたものを仕分けてる悟に対し、夏油はじっとこちらを見て口を開く。
それは私が買い物袋を机に乗せた瞬間だった。
「ひとりでよくそんなに買い物したねー……おや?君、慌てん坊だね、転んだのかい?」
びっくりして、そう言えば…と打ち付けた体側の服をチェックした。払いきれてない砂などは付いてない、うっすらと生地に汚れがある程度…。よくこんな汚れを見付けたよな、と関心しつつ夏油を見ると彼はにこにことしている。
悟はパンケーキミックスをしまい終えて、私と夏油の間に入り互いの顔を交互に見てる。
「なーに見つめ合ってんのよ。ハルカはやらねえって言ってんだろ」
「違うよ?悟、そういうんじゃない。
ハルカ、僕は君の頬に着いた血についてを言ってたんだけれど。よほど派手に転んだというか…むしろそれは誰かに叩きつけられたとか」