第11章 その男、心配性につき…。
『"怒髪天"!』
シュルル!と素早く召喚した式髪を男に巻きつけて、隣の車の向こう側へと放り投げる。反対側からのドアの開閉音、後部座席にいたやつが降りたみたいだ。
この時に見えたのは運転席や助手席には誰も居ないという事、つまりは私を押さえつけていた男が運転してたって事。
押さえつけてた圧迫感からの開放に圧迫していた余韻が残ってて少し気持ち悪くなりながら、再びドアに手を掛けた。
たったのふたりだから逃げられる希望がある、この場は逃げなきゃ…っ!
私に駆け寄ってきた細身の男はこちらに手を伸ばしてる。
「っの女!」
肩に触れられるその瞬発的に手を払った。
ゴリラみたいな屈強な男じゃないけれど、細身ながらも随分と素早いようで。
『がっ…!』
殴る勢いでもう一方の腕が私を地面に叩きつけた。アルファルトの上、転べば服越しでも痛い。厚手のパーカーじゃなくて薄手のワンピースだからアスファルトのゴツゴツした感覚をより体に味わう。
身を急いで起こしてもじんじんするのは薄皮でも剥かれてるんだろうって式髪で即座に治した。
起き上がった所で目に入る光景は、細身の男は直ぐ側のドア(後部座席)を開け、屈強な男は肩にロープを掛けて手には大きな茶色の袋を持っている……うん、どっからどうみても麻袋。
ははっ…笑える、マジで人攫いがいるじゃん、私の目の前に。いや笑ってる場合じゃないんだけれど。そこに入れられたらおしまいだし。
式髪は呪い相手なら触れる間に焼き祓うものだけれど、相手は人間。人に関しては出来るのは拘束する程度だし、溜め込んだ白髪部分は現在は少なく。相手はふたり、体術でどうこうしてる間に麻袋被せられたらジ・エンド。
車貸してー買い物行くから!…なんて言ったくらいで私のいる場所は誰も把握されてないだろうし。麻袋とロープなんて物騒なものを見たら危機感が急に増すよ。
──なんとしてでもこの場から逃げなきゃ。
握りしめる両拳。やや中腰に眼前で構える。
きっとこいつら遠くに放り投げても死んだりしないでしょ。もっと遠くに投げ飛ばそう。
私に警戒するふたり。
『残念ながら私は非売品だから。仕入れならあっちの店舗の商品から頼むよ』