第11章 その男、心配性につき…。
ドアに指を掛けたという所で真後ろからの男の声。
周囲に人は居なかった、となるとさっき入ってきた車だけが怪しい。さっき入ってきたのはもしかしたらたまたまじゃなくて私を狙って来ていたという事か?
父方のみたらいではなく、ピンポイントに春日といった。となると。
そこまで考えて、敵か味方か…それは明らかに敵なんだろうと思って拳を握りしめて振り返る。もしも知り合いだとか京都関連で悪いやつじゃなけりゃ治療すりゃ良いって事だし。
振り返った瞬間だった。
「フン、抵抗はさせないねぇ?大人しくしていた方が賢いんじゃあないか?」
ドンッ、と借りた車に片腕で押さえつけられる体。ぐっ、と呻く声が出た。私を押さえつける目の前の屈強な男は片腕で私を押さえつけたままにニヤリと笑ってる。
……嫌な笑みだよ、そういう勝ちを確定してるって笑みは。
『……なんだ、あんた?こんな事してさ、ただの買い物客って訳じゃないでしょ。それに私の苗字は春日じゃないんだけれど人違いなんじゃない?』
車に押さえつけられていて、その腕の力が強い。
今押さえつけられて居るのは胸の上辺り。隙を見て抜け出すなら蹴飛ばすのと、反転術式を使うかだけれど。
眼前には私を押さえる男、隣のこいつが乗ってきた車にはまだ人がいる…後部座席にひとり。運転席や助手席はこいつの姿が重なって見えない。
男は鼻で笑った。
「失礼しました、みたらいさん?
……そのまだらな白髪、先程見た式髪の召喚、間違いなく春日の血族の証よ。それから春日家のみたらいさんよぉー…俺たちは買い物客で合ってるぜ?」
『…は?バナナでも買いに来たんですかねー?』
非術者には見えないのが見えるという事はこっち側の人間という事か。
奥側に車停めてたから車の出入りは少ないはず。車にはもうキーが刺さってる…乗り込んだら即発進して高専に帰ろう。行き先を誰にも言っていないから少し焦りが出てきた。
「"春日の生き残りの仕入れ"に来たんでねぇ?みたらいハルカ、今ならプライスレス!」
『……っ!』
前悟が言ってたやつだ。春日を狙う奴。こいつに捕まってホイホイ付いて行ったら道具になる人生。自分の為じゃなくて誰かの為に命を消費される人生がある。
ざりっ、と靴の音が耳に入り、男がにじり寄るようにまた一歩私に近付いた。