第2章 視界から呪いへの鎹
「さて、早急に終わらせる…って、早漏の龍太郎クン、だっけ?僕のハルカに何を仕込もうとしてるのかな?返事次第ではキミだけじゃなくて春日家そのものをどうとでも出来るんだけれど?ホラ、僕五条の現当主だし?
ホラホラ~、ねえ、僕のハルカに何しようとしてたのかな?」
立ち上がる足を見れば、龍太郎に押さえつけられる力が弱まって開放された。やっと、開放されたと猿ぐつわとなったタオルに手を延ばして剥がした。
『……っ、』
乱暴されかけ、かなり際どく乳首が見えそうなレベルまで剥がれかけていたバスタオルを押さえる。
バシャ、と波を立てて湯船から出て、真っ直ぐに悟の後ろに隠れた。その黒いシャツをぎゅっと掴んで悟の背後から覗き込むように龍太郎を睨んだ。
そんな私の一部始終を悟は視線で追い、その青い瞳は私から焦ったような表情の龍太郎へと向けられていた。
龍太郎はしくじった、という顔だ。きっと悟が計画を邪魔しに来るとは思ってなかったんじゃないのかな…。
私にとってはその悟の登場がものすごく有り難いんだけれど。
「……あくまでも、滞在中の世話係、ですので。お背中を流そうかと…」
それは嘘。脱衣所で私が断っていたから。
だから私は声を上げた。
『絶対に違うっ!背中流すって……っ、断ったし!も、揉んだり舐めたりとか……その…しないしッ!』
ぞわっ、と思い出されるさっきの事。
ぎゅっと、黒い上着にしがみつく力が強まった。それを振り返って見た悟は私の頭を、まとめ髪のない場所を軽く撫でる。
なんだか、少しだけ。ほんとに少しだけ安心が出来た。
「彼女は否定してるけれど…?キミさあ、説明お願い出来る?それとも、五条の当主としての場を設けようか?」
「………」
観念したのか、龍太郎は肩を落として、ずぶ濡れのスーツのままに湯船から上がった。
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「現当主には逆らえません。私はお嬢様に子を仕込むようにと命を受けました」
『仕込むって……』
「強制性交です」
『言わずとも分かってるので二度と口にしないで下さい』
浴槽の縁に、私、悟、龍太郎が並び、声を潜めて事情を聞く。
祖母にバレないかという不安もあるけれど、悟が今んところへーき!と笑っていた。呪術かなんかで分かるのかも知れない。