第2章 視界から呪いへの鎹
バスタオル沿いに、左手が腹部から胸部へとまさぐっていく。手つきは私の拘束とは言えない、バスタオル越しに揉んでいる。左腕で何度も肘打ちしてもダメージが無いのか、びくともしない。
首元に荒い呼吸と舌が這い回る感覚、ぶるりと鳥肌が立った。泣きそう、こんな所で、なんで…っ!いやだ、私は龍太郎が好きなわけじゃないのに、どうしてこの人としないといけなくなるの…?
気付けば私はこの状況をひとりじゃどうにも出来なくて、この場で頼れるであろう、たったひとりの人物の名前を叫んでいた。
『悟…っ!悟、さっ…ぁ…っ、さとるぅーーーっ!たす、』
「叫ばないで下さいよ、」
必死に叫んで助けてさえも言えないままに、フェイスタオルで猿ぐつわをされて押さえつけられてしまった。
臨機応変というか手慣れているというか。
「……大きな声を出さないで下さいませんか?」
バシャバシャと暴れる私を浴槽の縁に押さえつけられた。
『ぐっ、』
バシャン、と腹部が水面を叩き、そして胸が浴槽の縁に叩きつけられて呻いた。背から押し付けている。結構倒れ込む勢いがあって、うっ、と呻くにも猿ぐつわもあってズクズクとした痛みを必死に噛んで痛みを堪えた。
押し付けたのは片手で、だ。猿ぐつわしてるタオルをきゅっと絞って掴んで、肘とかで背を押さえつけてるんだろう、ずる賢いというかなんというか。
後ろ手でスーツの袖を掴んでも、それくらいじゃなんの抵抗にもならなかった。引掻けさえも出来ないじゃない……。
男女の違いもあるけれど。この状況で…私ひとりで身の綺麗なままに浴室を出られる可能性が低い。
『む、むぐっ…む~っ!!』
片手がぺたぺたと太ももから臀部に触れていく。
終わった…これで祖母の命令通りになる……──
「恨まないで下さいね、早急に終わらせますから……これも一族の為で御座います、五条様はこれで、」
「僕の事呼んだ?」
『むっ…むぐぐっ…!』
素足でパシャ、と音を鳴らし押さえつけられた私の目の前でしゃがむ。部屋でのまんま、サングラスは無かった。
私ににっ!と笑いかけ、その後視線はギロリと上を向いた。