第11章 その男、心配性につき…。
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寮のハルカの部屋に何故か僕と傑の野郎ふたりきりとかいう、誰得な光景。このまま何もしなければ戻ってきたハルカに次は鳩尾に肘でも入れられそうな気がしてきた。その上にキスもえっちも会話も連絡も駄目っていう制裁も与えられる。そんなの嫌だ……!
ギスギスした部屋の中で、ハルカと僕がいつも寝るベッドに座ったままこっちを見てる傑を見て目を逸らした。
「……あん時はごめんって」
「ふふっ、あん時っていつの話だろうね?私から悟に詳しく聞きたいな、どういう状況下での出来事だったっけかな?」
うーわ、ホラこうやってネチネチと来たよ、これ。
逸した視線を傑へ戻せば、傑は愛想よく笑っちゃいるけれど内心笑っていない様子だ。
「君がそういう態度なら私にも考えはあるんだけれどね。ハルカだっけ?とても悟が大事にしてるみたいじゃないか。君にしては随分と…他の女の子との関係を切ってでも本気になるレベルにさ?」
「……っ!」
やばい、傑に目を付けられた。昔目を付けた子とかこいつに掻っ攫われたんだよなー…って今はそんな事を思い出してる場合じゃねえっつうの。
にこにこしたままに、傑は膝に肘をつきそのまま頬杖スタイルになって僕を見上げた。
「結婚、迫ってるんだって?部屋にもたくさんあるよね?婚姻届」
「……そうだけど何か?」
「頻繁に迫っても簡単にOKしてくれないのは悟の事を知ってるからって事なんじゃないのかな?
私だったらとろとろに融かして私しかもう見えない状態にまでしっかり絆した後に役所に一緒に行くけれどな~」
「怖えーよ!」
その例えの表現を傑とハルカで想像してしまったじゃん。
僕も彼女の逃げ場を無くしていって迫っちゃいるけれど、傑は多分軟禁でもして余計な思考を与える間もなく迫りまくるんだろうな……。
僕の特定のワードにぴくっ、と傑は反応した。
「怖い?衣替えの時期になってクローゼットからうじゃうじゃ小さなカマキリが溢れ出す方が怖いと思うんだけれどな?それについてどう思う?悟に聞きたいな?」
「ほんっとごめん!!!」
ハルカが言っていた通り、言葉だけじゃない頭を下げた謝罪をすると傑は僕を渋々ではあるけれど許してくれた。