第11章 その男、心配性につき…。
93.
部屋に籠もるのって退屈だろうと思っていたけれど。
いや……めっちゃ留守番楽しいわ。毎日じゃなくともたまにこういう時があっても良いかもしれない。自分の好きなようにして過ごせるから、普段やりたくともやれなかった事が進んだ。
悟が出勤し、食器の洗い物を、そしてゆっくりと洗濯物を干し、だらだらと部屋の中の掃除を済ませて部屋を換気する。ベッドでごろごろしながら携帯をいじり、運動したくなれば(散歩に高専内ぶらつきたいけれど)部屋でも出来る筋トレをした。
軽い運動で疲れ、退屈したら仮眠してー…目が覚めたらお昼にラーメンを作って食べる。
携帯、鳴らないなぁ……ただの休みになってるんだけれどと、逆に鳴らない事が嬉しいと思いつつ待機しながら洗い物をして、のんびりとフェイスシートマスクを顔に貼る。
悟が居ないから文句も爆笑もされないぞ、と携帯で漫画を読みながら待っていた時だった。
ばたん、という音。この部屋じゃない。隣の悟の部屋だ。
悟だったら大体もっとやかましいハズ。というか私の部屋の方から入ってくるのに。
まあ、あの五条悟という男の全てを私は理解してる訳じゃないし、気分的に自室から帰ったのかもしれないなぁ。悟、結構気分屋な所もあるしねぇ。
たまには、大将やってるー?とか言ってこっちに来た瞬間に驚かすのも良いやと開き直りながらベッドに腰掛け、携帯片手に自室待機を継続していた時だった。ひたひたと足音、そろそろ大将ーって言うかな?って待っていたら。
「えっ…」
引くような声色の男性の声。その方向を見れば悟が出入りしやすいよう、壁の穴を開けっ放しにした場所からこちらを覗き込む目と合ってしまった。
その男は悟じゃない。黒い髪で…長髪なんだろう、髪をキュッと留めているけれど一部の前髪が垂れている、きりっとした目の男。服装は悟のような上下黒。下はニッカポッカじゃないけれど顔で人物がよく分かる。
「……呪霊かな?」
『開口一番に人を呪霊扱いとか失礼な前髪の人だなぁ…』
「君こそ失礼じゃない?前髪の人って。他にも言いようがあるよね?」
呪霊扱いされた原因だろう、顔に貼り付けていたシートを剥がして、髪が掛からないようにと纏めていたのを降ろす。この状態で呪霊って言われたらどうしよう。その場合はセコム(悟)に速攻電話してやろう。