第10章 末裔の貝殻は開くのか?
パチパチパチ…。
呪いが燃える、爆ぜる音じゃない。これは人の手が出せる音。
はっ!と我に還って、跨る呪いも消え失せて床に座ったまま、私は後ろを振り返った。
そこに立つのは今じゃ薄明かりとなった通路、その薄明かりでもはっきりと分かる白髪の男、私の恋人。
野蛮な姿を見せてしまった、ような…。
「おっつー!ヒューヒュー♪すっごい野性味溢れてたよー、キミ!」
びくっ、と震える体。いつものじゃなくて悟の言う通りかなり野性味溢れてたような格闘術だったろうに。
ドン引きされていないだろうか、と伺うもいつも通りの悟。馬鹿にしてるって顔じゃない、よね…?
いつまでも固まったままの私を不思議そうに首を傾げて数歩私に歩み寄る。直ぐ側で悟はしゃがみこんだ。
「やっぱりキミは他の誰かに教えられた体術よりも昔っからの方が合ってるんだよ。喧嘩?不良格闘技?僕との稽古の時よりも凄くイキイキしちゃってサ!」
『……そんなにイキイキしてたの?』
先に立ち上がる悟は私に手を差し出す。周囲には呪いの気配を感じない、集まっていたものは全て祓ってしまったから。
悟の手を取って立ち上がると、彼が薄明かりの中でにっ!と笑う。
「うん、とっても!水を得た魚のようにね。両親共にきっと強かったんでしょ。キミがこれまでに人と喧嘩をしてなくったって、春日の血に含まれてなくたってその両親の遺伝は受け継がれてるんだよ」
『不良みたいな戦い方だから、私はあまり好きじゃないんだけれど……』
あくまでも両親から教わった護衛術というか、身に降りかかる火の粉を払う為の技術というか。呪術師になるにつれて高専で見る効率的な体術、私はそっちへと切り替えるつもりだったのに。流れるような真希や悟達の体術。私は家族譲りの血生臭い喧嘩術。
悟はフッ、と笑った。
「強ければなんだって良いじゃん。不良の喧嘩みたいだとかそんなの気にして慣れない戦いで死んだら元も子もないでしょ?
流石に悠仁には劣るけれど習うよりも持っているそれは申し分の無い接近戦の実力だと思うよ?」
『……本当?引いてたりしない?』
呪いはもうここには居ない。ゆっくりと出口へと歩を進める為に前を見ていた私はちらりと悟を見上げた。