第10章 末裔の貝殻は開くのか?
立ち止まって周囲を伺う。
明かりはまるでドラマ等で見た現像室のような、ぼんやりとした赤い照明。雰囲気を出すためのボロボロの布が天井から垂れ下がり、その演出の為の切り裂かれた布の端が空調のせいで揺れている。
うっすら見える蜘蛛の巣は本物か偽物か分からないけれど(高い位置にあって)雰囲気抜群。
この辺から感じるけれど、と二の腕にひんやりとした締め付けを感じた、刹那。
"ギャアッアァァ!"
暗い通路に火元が生まれる、呪いを焼く炎。
触れられた所から私の何かが抜けていく感覚と、呪力を補給される注ぎ込む力。あまり蓄えられていない状態には触れる時間が長ければ体が辛い。
片手で頭を押さえ、ぐらりとした視界で、ぼんやりと呪力で浮かび上がる呪いを睨みつけた。私に触れてるやつだけじゃない、正面奥からじりじりと他の個体が寄ってきてる。
私に触れてるやつはガリガリとしていて、首が長い老人のような呪い。頭を押さえていた手で呪いの首を掴み上げ、右膝で呪いの腹部に打ち込んだ。
ドズ、という音。グギィという声。
短い声を上げて呻く呪いに追撃を仕掛ける。よろめく呪いの頭を両手で抱え込み、顔面に膝で何度も何度も打ち付ける。触れた頭部や攻撃を打ち込むたびに炎が強くなり、呪いは燃えカスのようになって鎮火していく。少し明るくなっていた通路が照明を失って暗くなり始めていく。
次は奥からの個体。
触れただけ体力が消耗してる。ふらつくけれども倒れる程じゃない。呪いに耐えきれる程の呪力が無いだけでここは体術でなんとかしなくては。
夢中になって私が繰り出すのは真希や悟との"いつもの"体術じゃなかった。ほぼ暗闇の中で数ヶ月仕込まれたものよりも何年も仕込まれた方が感覚が研ぎ澄まされていた。
──そこ。
点滅する赤い薄明かり。近付く呪いの顎に右手でアッパーを食らわせて瞬時に燃え上がる炎。
肘でがら空きになった腹部を狙い、両手を組んで尻もちをつき倒れた呪いの腹部を何度も組んだ両手を打ち込んだ。
じわじわと燃える明かりが消え、こちらを見下す二足歩行の爬虫類のような呪いの腹部に頭突き、頭部…頬に拳を打ち込んで何度も追い詰めていく。
"アウッ…!ギャッ、ヒギッ、ヒダイヨォォ!"
ドッ、と床に倒れ込んだ呪いを殴りつける。
拳に着いた呪いの断片が燃えて、血の代わりに炎がボトリと床に落ちた。