第10章 末裔の貝殻は開くのか?
駆け足だったスタッフが中に居たであろう、お客さんが出た後にチェーンを張って、一度入り口のチェーンを半分程手に持って中を指す。準備が出来たみたいで。
帳を下ろし、明るい外からふたり揃って入る狭い入り口。歩を進めていけば暗闇からの僅かな薄明かり。必然的に横に場所を取る手を繋ぐ行為から腕にしがみつくように寄り添った。
ぶつかるってほどじゃないけれど、その寄り添った瞬間に悟は私を振り返る、声色が楽しんでいるような調子に乗った感じで。
「やだ~ちょっと~、そんなにくっつかれたらドキドキしちゃうじゃん!」
『狭いから仕方ないんだよ、しかも悟が堂々と真ん中歩くから余計にこうしないと無理!』
そう、手を繋いだ状態でも擦り着くように悟にきっと寄ってた(腕に縋り付くよりももっと歩き辛いだろうけれど)
そんな文句を言う私に向かって顔を向けた悟はこれまた堂々としていて。
「えっだってこういうの狙ってるんだもん」
『策士か!』
ツッコんだ後すぐにけたたましい音量での野太い叫び声と血塗れの落ち武者の人形が仕掛けから飛び出し、照らされて現れる。あまりにも急だった、よく見れば怖いものでは無かったのに私はてっきりスタッフが驚かすシステムも電源を切っているのだと思いこんでいたから、驚いて悟に思い切りしがみついてしまった。
『……っ!』
「…おっと!」
それは腕じゃなくって悟に隠れるような…斜め背後からのコアラのようなしがみつき方。
はっ、と我に返って薄暗い中で恐る恐る顔を見上げればにこにことした満面の笑み。
なに、この状況、って。
まるでこんなチープな仕掛けに怯えてしがみつく女子では?仮にも新米とはいえ呪術師。ひとり廃校に行き、森では正気を失った全裸でうーうー言う人達に囲まれ別荘地では強い呪霊と対峙してたってのに任務中にまさかこんな呪霊でもない、チープな仕掛けに驚いてしがみついてるって。
じわじわと恥ずかしくなってきた私に降りかかるのは悟の言葉。
「おやおや~?ヤンキーガールがお化け屋敷で怖がっちゃうってちょっとギャップ萌え、あるかも?キュンとするね?」
『う、うるさいっ!忘れて!』
「やだ」
……仕掛けの電源切られて無かったからだし!しがみつく悟から離れて私は先にスタスタと進んだ。
後ろからの"あんまりはしゃがないでね!"という楽しげな声を浴びながら。