第10章 末裔の貝殻は開くのか?
ゆっくりと逸れたルートからお化け屋敷方面へと向かう私達の足。
口内がシナモンの風味で満たされながら、任務モードだよな、これ…と困惑した。その私の視界に甘い香りのチュロスが現れる。
差し出した隣の悟を見上げた。
「食べてみる?」
『メイプルかー……じゃあ、私のもどーぞ』
「ふふ、チュロスがクロスしちゃうねー…グランドクロス!」
『ベルモンド一族かよ…』
悟が技名を言いつつ、チュロスがクロスする中で互いのを食べる。
流石メイプル、甘い。そしてシナモンと違い液体が掛けられたタイプなので少ししっとりとしている。シナモンの方はパウダーだからカリッとして食感は良いんだけれどね…このメープルの甘さは悟向きだ(甘い)
カリ、と齧った後に頬を膨らませ、もこもこと口を動かす悟。
「うわっめっちゃシナモン!」
『そりゃあシナモンだもん、それをいったら私の感想はめっちゃメイプルだって…すんごい甘ーい…。
……ほら、目的のお化け屋敷見えてきたよ』
指差す先にはファンタジーなアトラクション達からひとつ飛び抜けて異質な施設。頑張って雰囲気を出しているっぽい看板や壁のイラスト。スピーカーからおどろおどろしいBGMが流れ、時々悲鳴の効果音が入ってる。
立ち止まって残り数口分のチュロスを食べた後に指先で唇に着いた砂糖やシナモンを払っていると、私の手を軽く払って屈む悟。
かぷ、と啄むようなキス。私から離れて勝ち誇った表情の悟。
……お化け屋敷の前だからかあまり人が居なくても人に見られてるってのにこの男は堂々とキスしてきた…。
じわじわと頬に熱が集まるのを感じながら指先を自身の唇に当てた。
『ば、馬っ鹿、こんな所で何キスしてんのっ!』
「えー?払うなら舐めた方が良いし舐めるならそのままキスした方がお得でしょ?」
『どういう理論…ってか、悪化してるわ、悟の方のメープルで口周りちょっとべとべとする、かも…』
言い終わる前にニヤリと笑みを浮かべたのでこれは追撃が来るなと身構え、手を出して"結構です!"と断る。
じっとこちらを見ているお化け屋敷の受付スタッフを見る。このやりとりも全部見られてんな、これ…。
キスしときながら指先で拭ってる(結局キスしたかっただけじゃねーか!)悟をじとーっと見上げると、悟はサングラスの脇から蒼眼を覗かせて細める。