第2章 視界から呪いへの鎹
性格は大変残念であるけれど、顔が良いのは自覚してるのか、サングラスを外してくねくねしながらこっちを見ている気配がする。視界の端で黒と白が蠢いてる。
ぷい、と視界にも入らないように顔を背けた。
視界の外で名前を呼びかける声。
仕方ない、と私は悟の方向を見る。
「……減るもんじゃないからいいでしょうよ、だったらもう一回してみる?」
『いや、結構。私の中の何かが減る、もういいですから』
思い出すのはあの空を閉じ込めたような青。
至近距離で見たからこそ、それは鮮明に覚えてしまっている。思い出される感触、熱、鼓動。
それらの感覚が今、蘇ってくるようで。
『………何かが減ってるもん』
「………」
──それ以降、しばらく部屋では静寂が続いた。
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お通夜みたいな夕食後(悟は私含む3人に話しかけて賑やかしていたけれど)部屋に戻ってここ、浴室にやってきた、と。
一緒に入る?と誘われたけれど勿論断った。流石の流石に一緒に入らない。滞在中限定とはいえ、いくら恋人だからって初日に風呂に一緒とか無い。
色々ありすぎてかなり疲れたなぁ。自力でどうも出来ずに呪いの攻撃受けずに白い毛生えてきそう、苦労とか疲労の方向で。頭上に纏めた髪に触れてふと強烈な記憶として残るキスを思い出した。
……悟は、私を好きでもないのに、なんでそう簡単にキスなんて出来たんだろう?残念な中身だけれど、女の人に慣れてるんだ、きっと。そんなのに私はなんでこうも反応してるんだろう。
ドキッとしかけた。
そんなんじゃないし!私が悟の事…求めてなんかいないもの。好きなんかじゃ、ないし…!
ひとり湯船で、その思考を否定するように頭を横にブンブン振れば湯船のお湯がバシャバシャと大きな音を立てた。
両手でお湯を掬って顔に掛けて、少し気分をリセットさせる。
『……ん?』
顔を上げたら気のせいか、脱衣所に影が見える。すりガラス状の向こうに蠢く人。
一緒に入るって誘い断ったっていうのにまーた余計な事をしようとしてるんでしょ、あの人!お背中流しまーすっつって入ってくるんでしょっ!今、気付かなかったらバーン!って入ってくる所だった。
『ひとりにさせてよ…!なんで一緒に入んないといけないの…』