第2章 視界から呪いへの鎹
ザバァ、と立ち上がり、フェイスタオルは置いておいて、もしものためにとバスタオルを巻きドアを塞ぎに駆け出す。
パシャ、パシャ、と床のタイル上の冷えた湯を撒き散らしてドアを抑えた。
『出たら入れ違いでって言わなかった?私』
入ってくるんじゃない!もうっ!
片手はドアノブを、そして片手はドアへ。体重を掛けるように前傾姿勢で押さえつける。カチャ、とドアノブが向こう側から開けようとしているのを直接的に感じた。悟め、それでも入ってくるつもり!?
そんな事を思っていた私。けれどもドアの向こうからは予想外の声が聴こえてきた。
「いえ、私は五条様ではございませんので聞いておりません」
──悟じゃない。
声は真面目そうなあの従者、龍太郎だった。
『えっ、龍太郎……さん、でしたか?だったら尚更…ここになんで…、』
なんでここに居るんだよ、と突っ込む前に思い出される悟の言葉。
"仕込め。"
……やばい、今は私ひとり、祖母側の思惑通り…絶好のチャンスだったというわけだ。言葉で突っ込む前に私に物理的なモノが突っ込まれてしまう。
より開かないようにとドアノブを押す。
がこ、と力のままにノブが下がり、こちら側に押そうとする力。
『今私が入ってるのでっ!せめて上がってから入って下さいなっ!』
「今が良いです、抵抗せずに開けて下さい」
『開けられないねぇ…!裸だから無理!』
「都合が良いです」
『何の!?背中を流すとかはもう良いよ、自分で洗い終えたのでお引取り願えますか!?』