第10章 末裔の貝殻は開くのか?
お風呂の準備をしてる時にバタバタと暴れて何かを喚いているのが聞こえる。良くいるよね、夏場の街灯の下でひっくり返ったセミとかさ。スーパーでお菓子買ってもらえない子供がダダをこねる時とかさ。
全く今度は何を騒いでるのやら、と浴室を洗っていた柄付きスポンジをぽん、と雑に投げて悟の元へと向かう。
少し大股で向かいながら想像するに、歩けないから部屋まで運んでとか、一緒にお風呂入ろうだとかえっちしよ、だとかその辺りだろ。悟にはアルコールを絶対に与えちゃ駄目だ、これは。
玄関で片膝を立て、その膝に頭を乗せた悟の前にしゃがむ。さて、呼んだのは一体どの様な要件かな?私が目の前にしゃがみこむのを見て悟は酒にやられた表情でふにゃりと笑った。その普段見せない変化にどきどきする。
「……好きだよ、ハルカ」
『……っ、』
これは不意打ち。構えていない状態での目と耳から入ってくる攻撃。
酔ってほんのりと頬を染めた悟は柔らかい表情でどんどん言葉を畳み掛ける。それは私に確実に効いてるって分かってるから。
「好き。好き、好きだよ、ハルカ……頭がイカれるくらいに好きすぎてキミ以外愛せなくなっちゃった…
だから、キミに責任取ってもらうんだからね?」
私は両手で自分の熱い顔を押さえながら、指の間から悟を見る。きっと悟以上に真っ赤だ…。
『……いいよ、私だけ好きになってくれるなら好都合。他の人、好きになったら承知しないから』
「あっ、僕の発言にかもしれないって追加しといても良い?」
『あ゙ん?空気読んでくれない?』
互いにへらへらと笑って。
酔った悟の言ってたことは私からも言えることだと自身で気が付いた。
……普段から私、あまり素直に言えない。今なら酔った悟に言ってしまっても照れが少ないかもしれない。私自身はシラフにほど近いし(飲んでいたけれど)。
ぽやぽやとしてなんだか可愛い悟の蒼眼をじっと見た。